1 第53回 指導と評価大学講座
◇講義1 賢い学習者の育成
辰野千壽(応用教育研究所所長/元上越教育大学長)
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■ 賢い学習者とその育成
1 賢い学習者とは
(1) 賢い学習者
効果的な学び方・学習方略を用い,能力を効果的に働かせ,学習を主体的,
効果的に行う者
(2) 成功的学習者
構成主義(能力は自ら構成する)の学習理論からみた学習者の特徴
・積極的に知識を探す。
・自分で情報と経験を構成し直す。
・成績や報酬よりも知識そのものの探究によって動機づけられる。
・社会的に意味を構成するため,他の人との相互関係を重視する。
・自分の学習方略に気付き,それを新しい問題や場面に応用する。
(3) 自己制御学習者(自己調整学習者)〈ジマーマン1996〉
効果的,能率的に自己制御活動を用いる学習者
1)目標を立てる→2)効果的方略を用いる→3)効果を自己監視(モニタリング)する →4)必要に応じて学習過程を制御する。
2 自己制御学習力の育成(ジマーマン2001)
(1) 自己制御学習力
学習目標の達成のため,自分の学習意欲や学習方略を意図的に制御して自律的に学習 する力。目標設定,方略設計,自己監視,自己調整などのメタ認知的活動を行う学習力
(2) 自己制御学習のステップ → 子どもはどういう学習過程をたどるか?
ステップ1:自己評価と自己監視
学習者が以前の遂行と結果をみて,自分が何ができるかを判断する。
ステップ2:目標設定と方略設計
具体的な学習目標を設定し,その目標を達成するための方略を計画する。
ステップ3:方略実行と監視
計画した方略を実行し,その正確さを監視する。
ステップ4:方略の実行の結果と監視
方略の実行が学習結果にどのように影響したかを調べる。
*以上を繰り返す。
(4) 自己制御学習力の育成
1)前述のステップについて訓練する。
2)自分の能力,適性について自己理解を深める。→適切な方法を
3)学習課題の要求について理解を深める。→何を求めているか
4)効果的な学習方略とそれをいつ,いかに用いるかについて知識を高める。
■ 学習習慣・学習法と学力との関係
1 学習適応検査(AAI)と学力
(1) 学習適応検査の内容
学習の意欲/計画性/授業の受け方/本の読み方・ノートのとり方/覚え方・考え方/ テストの受け方/学校の学習環境/家庭の学習環境/自己効力感/自己統制/メタ認知
(2) 学力との関連性
・学力偏差値との関連を調査(中3 1,848名 5教科平均)
・どの検査内容を見てもAAI結果高群の学力偏差値が高く,低群が低い結果となった。
・学び方を知っている,学習環境が整っている→高得点
2 学習法の改善……学び方の指導
(1) やる気を出させる
・期待 ― 価値モデルを教える。
期待:目標達成への期待 → やればできる
価値:学習課題の価値の評価 → 自分にとって役立つ,自分にとって大切
・好きなもの,簡単なことからはじめさせる。
・結果を知らせる。 → 自己評価も用いる。
・適度にほめ,成功感,達成感を味わわせ,やればできるという自信(自己効力感)を持 たせる。
・広くほめる。→ 算数ができた→国語もできるよ/もっとできるよ
・狭く叱る。→ そのことだけを限定して叱る。他のこと,過去のことを持ち出さない。
(2) 計画的に学習させる。 → 家庭の協力
・計画を立てる。 → 勉強の時期・時間・課題を決める。
・計画を実行する。 → 例外を認めない/時間通りに勉強する/机に向かったらすぐ勉 強に取りかかる/予定の時刻になったらやめる
・同じ時間に同じ場所で → いつものように(条件反射)
(3) 勉強の環境を整える。
・勉強部屋を活用する。
・机を活用する。→×ものをたくさんおいた机/○おかない机→机を広く使う
○壁に向かって机を置く。
(4) 学習スキルを教える。 → 学校
・本の読み方/覚え方・考え方/ノートのとり方/テストの受け方
(5) 授業を上手に受けさせる → 授業のマナー
・授業をサボらない/遅刻しない/授業に積極的に参加する/飽きても態度に
出さない/提出物の期限を守る
■ 習慣形成の方法 → どのように習慣化させるか
1 条件づけ → 行動理論
(1) 古典的条件づけ
・条件刺激(本来,反射を引き起こさない刺激)と無条件反射(本来,反射を
引き起こす刺激)を同時に与え,反復する。
(2) オペラント条件づけ
・刺激に対し適切な反応をしたとき報酬を与える。
2 モデリング → 行動理論
・よい手本を示し模倣させる。
3 理解(認知の変化) → 認知理論・構成主義
・よい習慣・学び方の意義・役割について理解させる。
4 意図的努力 → 認知行動理論
・よい習慣
・学び方の価値を理解し,それを用いるように意図的に努力させる。
・行動契約法→行動の適切・不適切を明らかにし,不適切な行動をしたときには,どのよ うな結果が起こるかを予め契約あるいは協定しておき,それに基づいて指導する。
■ しつけの留意点
1 自己統制力の育成 → セルフコントロールできるかどうか
・自分の感情・欲望・行動を抑制し(抑制的な働き),自分の立てた計画を積
極的に遂行し,最後までやり遂げる力(促成的な働き)を育成する。
・規則正しい生活を習慣化
2 受容館・有能感・責任感・自尊心への配慮
・認められる/外部に責任を押しつけない/ほめる,しかる(自我の意識を傷つけない よう)
【参考図書】「学び方の科学」辰野千壽:著 図書文化:刊
2 第53回 指導と評価大学講座
講義2 教育評価の原理
石田恒好(文教大学学園長)
1 教育評価とは
「評定」あって「評価」なしが実態→目標に達したかどうかは「評定」,評価
と評定の区別を。
「評価」とは,教育が機能しているかどうか経過をチェック。
(1) 教育評価
教育による目標の実現状況を明らかにし,それに基づいて,教育(教師の指導,児童 生徒の学習,管理職の教育環境の整備,管理運営等)が,目標の実現のために機能して いるかどうかを値踏み,点検,反省し,不充分であれば機能するように改め,教育をし 直し,目標の実現をめざすために行うものである。
P→D→S
P→D→C→A
〈本来は企業の品質管理評価。ゆえに目標意識がやや弱い〉
O→P1→D1→C1(→P2→D2→C2)→O
( )内は,到達できていない場合の指導のし直しを表す。
O1→P1→D1→E1→O2→P2→D2→E2→O3
P:Plan D:Do S:See C:Check A:Action
O:Object E:Evaluation
*S:診る E:SやCに代わるもの(指導,学習,管理,運営)の値踏み
○ 値踏み,点検,反省と指導のし直し
・教師にとって……指導について
・児童生徒にとって……自己の学習について
・管理職にとって……教育環境の整備や学級編制など
・行政……カリキュラムなど
○ ルーブリック評価……客観的で誰でも(人が変わって)同じ尺度で評価できる。
(2) 教育測定
○ 教育測定とは
・観察,テスト等によって事象(状態)を明らかにし,数量的に表す操作
・テスト…その単元でつけたい力(学習指導要領)がチェックできるもの。
・数量的に表す…客観性の問題
・OECDのPISA Assessment:教育の成果の値踏み,実態調査
→日本に,教育にもっと予算づけをと勧告。日本の教師のレベルは高いことを認 めている。
(3) 評定
○ 観察,テスト等によって事象(状態)を明らかにし,あらかじめ設定した
基準に従って点数や記号を付与する操作
→「3・2・1」「A・B・C」
・80%以上実現を「3」など
・教師は,評定「1」がなくなる努力を
○ 記述評定
・総合的な学習の時間の評価→加えて「外国語活動」の評価
(4) 学力
○ 学力とは
・学習によって獲得された能力
・習得すべき学力は学習指導要領に内容目標として示されている。
・教育基本法……自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視する。
・学校教育法,学習指導要領総則……学力の3要素が示された。
・基礎基本の能力……ぜったいに身につけさせて対能力/次の単元で必要となる力
(5) その他
○ 低学年の指導を十分に
・先に行けばいくほど困難……低学年に力量のある先生を
○ 結果の独自確認
・テストは翌日には必ず返す。
テストは教育測定。また,指導の結果。「指導と評価の一体化」の一環でもある。
・テストを実施したら,すぐに採点する。そして教師は自分の指導を評価し,以後の指導に反映させる。
・同時に,子どもも自己の学習をふり返る。これは学習終了後,経過時間が短ければ短いほど効果が高い。
2 評価の手順
(1) 評価目標の設定(共有)
○ 指導目標(O1)の全体を具体化し,それを母集団として抽出,設定する。
・指導の仕方が見えてくる。
○ 具体化することは,すべての教師に指導の仕方が見え,測定の仕方が見えてくる状態。よい授業への基本
(2) 教育測定
○ 資料の収集,目標の実現状況の把握
・測定技術の洗濯/測定技術の作成/実施
○ 妥当性・信頼性などの検証
・パフォーマンスアセスメント
実際場面(実際にやってみる)にできるだけ近づけて測定→「確かな学力」「活用できる学力」「生きる力」を測定できる。
(3) 測定結果の表示と活用(共有)
○ 評定
・評定基準…評定のよりどころ
・規準→目標(あり方)というよりどころ
・基準→評定(現実)のためのよりどころ
・ルーブリック評価→評定基準のていねいなもの。事例で精確に。
○ 評価の活用
・教師……指導の反省・改善と指導のやり直し
・児童生徒……学習の反省・改善と学習のやり直し
・管理職……虚位句環境の改善と運営
・行政……カリキュラムの反省と改善
3 指導と評価の一体化 ― 短期的評価 ―
目標1―計画1(P1)―実施1(D1)―評価1(E1 実現状況の測定,反省・改善)
目標2―計画2(P2)―実施2(D2)―評価2(E2 実現状況の確認,成績)―目標
3
(1) 指導目標(O1)の具体化 ―完全習得学習から―
○ 本時・単元で行う(行動目標)
○ 観点別に行う。
○ 教科部会で行う。
○ キャロルの完全習得学習……授業時数が大きな要因。時間が必要。→補習しかない。
(2) 指導1 計画1(P1)―実施1(D1)
○ 多くの児童生徒がわかる,できる計画であり,実施である。
・一斉指導
・少人数指導 → 等質・異質 きめ細かい指導
(3) 評定1(チェック,改善)……実はここで完結することが理想。
○ 目標1の実現状況を見とり,次の指導についての資料
(O2の設定のため)を得る。
○ 測定目標(規準)の設定
・分析した指導目標から抽出する。→代表的なものを抽出して設定
○ 測定技術の選択,作成,実施
・設定した測定目標にもっとも適した技術
○ 測定結果の表示・解釈
・採点等で処理,集計した結果を評定基準により評定を行う。3段階以上がよい。
・児童の学習状況チェックだけでなく,自己の指導の妥当性も検証
→以後の指導に生かす。
○ チェック,改善して次の指導2へ
(4) 指導2 計画2(P2)―実施2(D2)
○ 目標1の実現状況に応じて,目標2について改善した指導,学習の見直し
を行い,すべての目標1の実現を果たす
(目標3)。
○ 少人数指導(習熟度別指導)やTT指導など,指導法の工夫
(5) 評価2
○ 測定目標(規準)の設定……評価1に準じて
○ 測定技術の選択,作成,実施……評価1に準じて
○ 測定結果の表示・解釈・成績の付与……成績の評定基準で評定を行う。
*研究授業……日本独特。米国などが模倣。
*座席表……子どもがこういう学習をするだろうという予測を示す。これはできるがここでつまずくかもしれない。
→ 子どもが見えている教師
3 特別支援教育専門講座−3−
各務原市立図書館で開催された特別支援教育専門講座、正式には、初級・中級特別支援教育推進専門士認定講座へ参加しました。
講師は、東海中央病院の岩田吉弘医師です。
内容は、解剖学、神経医学領域に関する基本知識でした。
まずは、じっくりと脳の構造を説明していただきました。
その後、ADHDと自閉症は、脳にどのような機能異常が見られるかを具体的に教えていただきました。また、それぞれに適応する薬も紹介していただきました。
近年の脳科学の進歩はめざましく、日々進歩しています。
情報を得ることが、よいより支援に必要なことであることを痛感しました。
4 お役立ち資料
ブログで、7月15日から8月5日までに紹介した資料です。
評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料(中学校編) |
国立教育政策研究所
|
総合的な学習の時間における評価方法等の工夫改善のための参考資料 |
国立教育政策研究所
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平成19年度「課題解決を図る授業研究会」学習指導案 |
宮崎県教育研修センター |
特別支援教育コーディネーターハンドブック |
宮崎県教育委員会 |
LD児、ADHD児等の支援の在り方についての研究 |
山形県教育センター |
生徒指導提要 |
文部科学省 |
『校区ではぐくむ子どもの力』 |
文部科学省 |
『子どもの社会性が育つ「異年齢の交流活動」』 |
文部科学省 |
群馬県人権教育指針 |
群馬県教育委員会 |
研修テキスト−保護者との信頼関係に基づく安心・安全な学校づくりのために− |
山形県教育センター
|
「学級運営等の在り方についての調査研究」報告書 |
文部科学省 |
人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ] |
文部科学省 |
特別支援教育の在り方に関する特別委員会 論点整理 |
文部科学省 |
初めて特別支援学級を担任する人のためのQ&A |
石川県教育委員会 |
命の大切さを実感させる教育プログラム |
兵庫県教育委員会 |
外国語活動の手引き〜5つの課題とその解決に向けて〜 |
群馬県教育委員会 |
群馬県中学校非行防止プログラム |
群馬県教育委員会 |
保護者との信頼関係を築く職員研修プログラムの在り方 |
福岡県教育センター |
インターネットトラブル事例集(平成22年度版) |
群馬県教育委員会 |
「確かな学力」向上計画(平成19年度〜21年度) |
群馬県教育委員会 |
不登校・いじめ問題対策マニュアル |
群馬県教育委員会 |
確かな学力の定着向上のための指導改善資料 |
愛媛県総合教育センター |
5 役立ちWeb特集
(1)公立学校施設の耐震改修状況調査の結果について 結果のポイント
耐震化率: 70.9%(幼稚園)、80.3%(小中学校)
耐震性がない建物(耐震診断未実施の建物含む): 1,333棟(幼稚園)、22,911棟(小中学校)
耐震診断実施率: 92.0%(幼稚園)、98.8%(小中学校)
※調査の詳細については、次のURLを御参照ください。
(2)「日本語指導が必要な外国人児童生徒の受入れ状況等に関する調査(平成22年度)」の結果について
日本語指導が必要な外国人児童生徒の
1)学校種別在籍状況
2)母語別在籍状況
3)在籍人数別学校数
4)在籍人数別市町村数 等
日本語指導が必要な外国人児童生徒に対する
5)施策の実施状況
(3)平成22年度文部科学白書の公表について
1 東日本大震災への対応、2 特集、3 文教・科学技術施策全般の年次報告、の3部構成
(4)平成23年度学校基本調査(速報)の公表について
(5)平成22年度学校教員統計調査(中間報告)の公表について
学校教員統計調査は3年ごとに実施している。
(1)暴力行為 (2)いじめ (3)出席停止 (4)小・中学校の不登校
(5)高等学校の不登校 (6)高等学校中途退学等 (7)自殺 (8)教育相談
6 教育関連情報
(1)子どもたちのコミュニケーション能力を育むために〜「話し合う・創る・表現する」ワークショップへの取組〜審議経過報告のとりまとめについて
コミュニケーション能力を文科省として定義しています。
「いろいろな価値観や背景をもつ人々による集団において、相互関係を深め、共感しながら、人間関係やチームワークを形成し、正解のない課題や経験したことのない問題について、対話をして情報を共有し、自ら深く考え、相互に考えを伝え、深め合いつつ合意形成.課題解決する能力」と捉え
○ コミュニケーション能力を学校教育において育むためには、
@ 自分とは異なる他者を認識し、理解すること
A 他者認識を通して自己の存在を見つめ、思考すること
B 集団を形成し、他者との協調、協働が図られる活動を行うこと
C 対話やディスカッション、身体表現等を活動に取り入れつつ正解のない課題に取り組むことなどの要素で構成された機会や活動の場を意図的、計画的に設定する必要がある。