10:00〜11:45
地方教育行財政制度
東北大学大学院教授 宮越英一氏
教育委員会制度の改革が始まろうとしている。「はじめに」では、その間接的な要因としてのグローバリゼーションをおさえたい。
行政改革の推進が直接的なインパクト。教育行財政改革を引っ張っている。分権改革、規制改革を中心に見ておきたい。
次に、地方教育行政の改革課題を整理したい。さらに教育委員会についてまとめたい。行政委員会にも注意したい。
P10では、地方教育財政の構造がどうなっているかを見てみたい。国と地方の関係も概観したい。最後に改革動向と課題についてまとめる。
はじめに
新たな資質能力の必要性
知識社会、グローバリゼーションと言う言葉が使われるようになった。知識社会とは、知識が社会経済の発展を促進していく基本的な要素となる社会のことで、資本の技術構成要素として重要。IT産業などが、知識社会の対象となる。
グローバリゼーションは、1980年代から強調されるようになった。社会主義国が崩壊し、資本主義が一人勝ちし、マネーゲームが始まった。市場統制も始まった。
その中で、教育に目を向けると、サッチャーリズムが働きかけている。
《参考》 教育サービスと「準市場」論について
財政的には小さな国家だが、権限は強くして行く。新公共経営の導入。三重県の教育改革でも使われた。民間企業のスキルを可能な限り取り入れ、行政の効率化を図る。
民間の資金を使って、公共的な社会基盤を整備する。コミュニティスクール、民間校長もこの例。
日本でも、小泉構造改革の中で、「官から民へ」、の中に現れている。政治主導でもある。官僚中心から、政治主導へと変わっている。
英米系の文化は、サミットでも、経済政策、安全保障がメイン。H11のケルンサミットで初めてブレア首相が、教育問題を提案した。
PISAでは、実生活で使う知恵を求めている。これもひとつの教育政策の要因になっている。
WTOは、教育もサービスといっている。遠隔教育で、小中学校でも、オーストラリアあたりが日本で宣伝している。
これらG8、OECD、WTOが日本の教育に影響を与えている。
内閣府の中にも、経済財政諮問会議、規制改革会議、教育再生会議、文科省では中教審が検討している。
規制改革会議は、国対地方の問題。地方分権は規制会議と全国知事会が主張している。
中教審は、25日に集中審議。教育に対する国の権限を強めていこうという動きもある。再生会議もそう。これを中教審がどう受け止めるか。
未履修問題では、私立学校の方が多かった。私立学校首長部局だが、教委の影響を強めようとしている。しかし、立場が違うとなかなかまとまらない。
中曽根時代は臨教審一本だったが、今は、いろんな会がつくられすぎた。どう調整するかが興味がある。改革がどう進められるか関心がある。
こうしたなかで、国民教育としての機能が果たし得なくなってきた。学歴も機能しなくなってきた。制度として、信頼性を復活する必要がある。「公共」という考え方もいる。
教育基本法の改正も「公」。国を中心した分野の強化であり、公共の精神の再構築のため。民が担う公共(The public common of people)も必要である。NGOやNPO。
こうした内外の揺らぎがバックにある。こうした中で、学習組織は、教師自身により、知識創造学校(knowledge-creatig school)づくりという考え方がでてきた。
T 行政改革の推進
1 1977年の行政改革会議最終報告書になぜ行政改革かが示されている。
これに対して文部省は、「特色ある学校づくり」を出し、自立性を出した。
各学校の学級編制の弾力化、教育長の任命承認制度の廃止と議会の同意の導入、教育委員会への父母代表、校長・教頭の任用資格の見直し、職員会議の位置づけの明確化、学校評議員制度、民間からの校長の任用、通学区制度の緩和・廃止、学校評価、競争的経費、校長のリーダーシップの強化
《参考》今後の地方教育行政の在り方について
地方分権推進委員会の報告で改革を進めた。
これにより、「地方分権時代における教育委員会の在り方について」が諮問された。
中教審では、教育制度分科会・地方教育行政部会で審議された。
これに対して、中教審 義務教育特別部会は、答申「新しい時代の義務教育を創造する」
3 規制改革会議は、重点6分野(医療、福祉・保育、人材、教育、環境、都市再生)を挙げ、官製市場と言う言葉を使い、教育を開放するよう求めた。
「規制改革・民間開放の推進のための重点検討事項に関する中間答申」を出して
学校選択の普及促進、教員評価・学校評価制度の確立、教育バウチャーの導入、教育委員会制度の見直し を答申した。
義務教育段階から学校の多様化、私立学校の参入拡大、株式会社による学校の設置運営、コミュニティスクール導入など
岡山県の例では、株式会社の学校ができ、コミュニケーショ科などが試みられている。
バウチャー制度は、アメリカのシカゴから始まった。私立学校は税金と授業料の二重払いになるというので、不公平感を是正するために始まった。
第三者評価は、自己評価から義務化され、交付金の額にも影響する。アングロサクソン系の考え方だが、イギリスでは、むしろ簡素化されている。
教育委員会の抜本的見直しは、2月15日の規制改革会議で出された。
「文部科学省による裁量行政的な上位下達システムの弊害を助長することがあってはならない。」
「大臣指示・勧告と言った形は極力避け、むしろ、教育委員会自身が自らの努力で進化していける環境づくりをサポートすることに国は注力すべきであり、あくまでも教育に関する国の権限を強化雨すると言うことのない制度設計とすべきである。」
「評価機関起用に際しては、教育行政省庁から完全に独立した機関とすべきであり、所管省庁の関連組織への委託は第三者評価たりえない」(H19.2.15)
4 改革の成果
「官から民への改革」
U 地方行政の改革課題
1 教育委員会制度への評価
(1) 教育委員会の長所と短所
〈長所〉
・ 多様な民意を反映し、中立公正な教育行政を確保できる。
・ 計画的・安定的な教育行政運営を確保できる。
・ 執行機関の多元化は、参加民主主義、住民自治の観点から好ましい。
〈短所〉
・ 合議制の教育委員会では、責任の所在が不明確である。
・ 事務処理、行政処理が迅速にできない。
・ 予算編成権や事務局職員の人事権がないため、首長の支持や連携協力が不可欠。
・ 文科省・都道府県教育委員会との縦系列の教育行政システムになり、地域の教育問題への感応生や敏速な対応の欠如
・ 形骸化、教育委員の無気力化、学校の教委への依存
・ 国の地方への影響力の強化
(3) 教育委員会廃止論
建前としての行政委員会、実態として予算や人事等の権限がない。
穂坂邦夫氏は「20世紀型残骸」と言っている。特区で教委廃止をやろうとしたが、文科省が反対した。理由は政治的な中立性が保証できないから。
(4)所管業務・権限縮小論
出雲市長の提言;首長直属の教育担当部局化、教育委員会を諮問機関へ、教育委員長を首長が勤める。学校教育に限定し、社会教育・文化財を首長部局へ移管。
(5)教育再生会議の提言
「教育委員会制度の抜本的見直しについて〜地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正の方向性〜」 H19.2.5 学校再生分科会
(6)国と都道府県教育委員会、市町村教育委員会等との関係
地方自治法第245条の5
「…法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、…違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。」
2 地方教育行政制度の基本形態
(1)地方公共団体 略
(2)議会の権限 地方自治法 96、98、99、100
地教行法 4条1項
(3)首長の権限 地教行法 4,7,10,24条
地方自治法 149,180条
(4)教育委員会制度
A 性格 自治法 138条の4@
地教行法 23条、自治法 180条の5@
地教行法 3,13,28,55条
B 種類 都道府県教育委員会、市(特別区)町村教育委員会
地方公共団体組合教育委員会(岡山県 蒜山教育事務組合)
統合教育委員会(自治法252の7)
C 組織・運営 素人統制(layman control)
D 教育長と事務局 専門的リーダーシップ(professional leadership)
E 学校管理規則
教育委員会と学校との管理関係を定めた教育委員会規則の通称
学校の施設、整備、組織編成、教育課程、教材の取り扱いその他学校の管理運営の基本的事項について規定している。(地教行法33@)
(5)行政委員会方式
@ 行政委員会とは?
国及び地方公共団体の行政機関のうち、一般行政権からある程度独立して、一部の行政権を担当し、ある目的のために自ら特定の行政の執行にあたる合議制の行政機関。
国 −人事院、公正取引委員会、国家公安員会、文化財保護委員会
地方−都道府県−教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会・公平委員会、監査委員会、公安委員会、地方労働委員会、収用委員会など
市町村−教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会・公平委員会、監査委員会、農業委員会、固定資産評価審査委員会
3 教育課程行政
(1)教育課程の編成
@ 学習指導要領
小・中・高校および盲・聾・養護学校で学習指導が行われるにあたり、その道筋、内容の規準となるべき事項を記述した文書
A 教育課程の編成
基準教育課程(文部科学大臣・教育委員会)、実践教育課程(学校)地教行法23の5
(2)教科書と補助教材
@ 教科書 地教行法 23の5
A 補助教材 地教行法 33
4 生涯学習体型への移行
(1)臨時教育審議会第4次答申(1987年)
(2)新たな視点
@ 活動の基礎概念の転換;教育から学習へ
A 活動範囲の拡大 ;対象 子どもから一般住民へ
内容 体系的教育から多面的学習へ
水準 基礎教育から水準の不定
B 連携の拡大;学習関連情報のネットワーク化
C 対応の多様化;多様な学習ニーズ、総合化・高度化への要請
(3)「趣味・教養的学習」から「地域おこし」へ
V 地方教育財政制度
(略)
W 改革動向と課題
地方教育行政の可能性と課題
1 文科省・都道府県・市町村・学校の役割分担・権限配分・責任の明確化
2 首長による基本方針の提示と政策形成機能、議会での政策論議とチェック機能の向上
3 教育委員へ教育行政の専門家の任命による政策立案能力の強化
4 市町村合併に伴う教育委員会の再編と専門的教育職員の資質能力の向上
5 教育委員会の透明性・説明責任の強調と外部評価の評価指標・指針の提示
6 教育委員会の再生方策の検討(英国の再生施策;公私協働、公公協働、トラスト設置、外部委託)
7 ガバナンス構築による自治世界の形成
8 利害・意見の調整を図る仕組みとルールづくり
☆★☆ コメント ☆★☆
レジメが体系的にまとめられており、たいへん勉強になった。これだけのことの説明を聞くには、この時間では全然足らない。リンクを貼った関連資料を参考にしながら、時間をかけて読み進めたい。
結局、中曽根・レーガン・サッチャーの頃に決めた方向性の延長上に小泉改革があり、日本のアングロサクソン化が進行したと言うことが、改めて確認できた。