
個人別に出題する。
手順
「ちいさなおうち」を読んで
「ちいさなおうち」は今世紀前半の北米大都市における郊外住宅の展開を主題にしている。
(高架鉄道の様子からするとChicagoのようでもある)
南北戦争の後、急速な産業近代化とともに都市に集中した人口を受け入れるため、
大都市には大量の集合住宅が建設された。
これらの集合住宅は、それまでイギリス等の都市部に見られた、ロウハウスと呼ばれる長家住宅を模したものから発展して行った。
しかし今世紀初頭に乗用車の大量生産が始まり、道路の整備が進むと、
それまで職場のある都心部へ馬車通勤をしていた都市住民は、自動車による遠距離通勤が可能になり、
郊外に作られた戸建て分譲住宅地("Back to the Future"に見る"Lyon Estates"の様なもの)へと拡散して行った。
建設当時は高級マンション地帯であったニューヨークの
Halem(階段室の装飾にLuis Confort Tiffany自身の手になるステンドグラス使われている)など、
都心に隣接したそれまでの通勤住宅群は、自家用車を持てない低所得者層の住む所となり、
集合住宅の間の路地はストリ−トバスケットボ−ルの遊び場と化して行った。
これに対し白人の子供は郊外のグラウンドで野球かアメリカンフットボ−ル、
とスポ−ツの世界での住み訳も住宅環境に大きく依存している。
自家用車とともに北米の住宅を変化させたものに、女性の社会進出があげられる。
第一次大戦中、急速に職業を持ち、所得を得る様になった女性は、
住宅においても電化製品を初めとする近代的な住宅設備を要求する様になった。
また共稼ぎの増加とともに、住宅地に隣接した郊外には小売り店鋪、外食産業が発達し、ますます中心市街地の地盤沈下を加速させた。
北米の都市居住では「自家用車+高速道路+郊外住宅」に象徴され、
「インタ−チェンジから5分以内に玄関」が無い住宅には住まないというライフスタイルが確立して行った。
東部に見る若干の観光道路以外の殆どの高速道路は無料であり、
高速道路に対する要求は、各地の自治体にとって深刻な財政上の負担となっていた。
こうした北米の都市住民に衝撃を与えたのは、1970年代のオイルショックであった。
オイルショックと公害問題の深刻化によって提起された「公共交通機関への転換」は、
同時にこの財政危機を救う手段としても有効だと考えられた。
企業経営からは赤字に転落しており、このままでは廃止される、という私鉄を国が買い取り、
日本の国鉄が「民有化」されるのと前後して国鉄(Amtrack)が設立された。
サンフランシスコの湾岸鉄道(BART)等、自治体経営の公共交通機関の整備も進められているが、
これらは営利事業としてでは無く、道路予算をも含んだ交通政策全体の中での補助事業と位置付けられている。
また中心市街地が観光客と低所得者のみのもの、という状態を憂慮し、
将来に向かってより「住みやすい」中心市街地の姿が切実に求められており、これらの試みの全体を"New Urbanism"と呼んでいる。
我が国でも第二次大戦後の産業近代化に伴い、人口の急速な都市集中が進んだが、その初期には自家用車通勤は考えられず、
既成市街地周辺への無秩序な宅地開発が全国的に見られた。公共住宅の供給も、
それぞれの都市の全体像をイメ−ジすることなく、「空き地を利用」する形で進められた期間が長かった。
東京オリンピックの後、鉄道を利用した東京都心部への通勤圏という想定で、多摩丘陵に連環都市構想が立てられ、
複数の「ニュータウン」が建設されたが、巨大都市東京の機能を強化するだけの「通勤都市」だとの批判通り、
産業抜きの住宅主体で建設されたこれらのニュ−タウンは、いずれも財政赤字に悩み、当初計画されなかった産業誘致に励んでいる。
静岡市の阿倍口新田、浜松市の佐鳴台を初めとする住宅団地開発もこの時代のものであるが、
北米における郊外住宅地との決定的な違いに、通勤用道路の不充分な整備にもかかわらず、
中心都市機能に依存した開発であったことがあげられる。
現在の通勤渋滞は、この時代の我が国における都市計画のあり方を象徴している。
アメリカ合衆国では、高速道路が地方中心都市への交通集中を緩和するための、
都市高速道路として始まり、それらをつなぐ形で都市間高速道路網が形成された。
これとは対照的に、我が国では名神・東名といった都市間高速道路が、産業道路としての性格を強く持って先行し、
生活道路としての性格を含む都市高速道路は長く首都高速のみであった。
現在、我が国でも丁度今世紀の初め頃の北米と同様、自家用車が通勤の主要な手段となり、
それまでに形成された都市構造が人々の生活に適合しない場面が様々な形で現れつつある。
都市住宅の郊外への拡散は、それまで低密度であった人口の急増により、郊外の地域環境への深刻な負担である。
これと同時に、中心市街地では人口減少によって、様々な環境劣化が始まっている。
「ちいさなおうち」に描かれた様な、「より良い居住環境を求める」人々の姿は、これからの日本において、
どの様に変わるであろうか、特に「ちいさなおうち」に描かれた、
北米における20世紀の都市居住の移り変わり、「アメリカ大都市の死」を「生」へと変えようとする様々な試み、
あるいは日本における20世紀後半の産業近代化・人口の都市集中と対比させ、4000字程度にまとめよ。用紙は自由とする。
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