俯角と仰角

ヴァーチャル空間怖い
空中庭園
俯角と仰角
近づき易さI
近づき易さII
ヴァーチャルまちづくり



Vue Perspective de la Ville de Chaux, ca1801
Claude-Nicolas LEDOUX
世界版画9/パリ国立図書館版/筑摩書房/1979

俯角と仰角という二つの視座は、都市を考えるに際して様々に論じられて来た。
18世紀後半、近代産業の始まりにあってルドゥーは来るべき近代都市を俯角から描いた。 そしてその後、近代産業がもたらす近代市民社会によって彼自身が散々な目に遭うのだ。


Carceri d'Invenzione
Giovanni Battista PILANESI
one of the plates added for the second edition, 1760, engraving.
Carol Jackson's Fine Art- A Virtual Art Museum



そしてルドゥーと同じ時期、ローマにあって古代都市の廃虚を仰角から描き続けたピラネーシが、 近代産業の黄昏が感じられる現在、再評価され始めている。
ピラネーシが大建築を残さず、むしろ版画作家として名を残しているのと対象的に、ルドゥーが近代的分業の草分けとして、 それまで建築家が自ら制作していたという版画を、専門の版画家にゆだねた最初の人だというのも、「手作り」のもてはやされる現在から見ると面白い。


The Nostalgia of the Infinite
Giorgio de CHIRICO(1888-1978)
1913, Oil on canvas, 135.5 x 64.8 cm (53 1/4 x 25 1/2in)
The Museum of Modern Art, New York
WebMuseum



近・現代美術で都市を仰観していた作家からは例えばキリコが挙げられるだろう。

都市を仰観する作家の目には常に「誰のための都市か」という問が宿っているように見える。
それに対してテレビゲームでは「操作のし易さ」という観点から俯角が用いられることが多い。 前掲の"Myst"に現われた「円柱の上に載せられた円環」にしても、やはり上からの視点で描かれている。


フォルテと遠鉄デパートの間からアクトシティーを望む。



これに対してアクトシティー屋上の円環は圧倒的多数の市民にとっては、上から俯観することよりも、 こうして下から仰観することのほうが多いのではないだろうか。
テレビゲームに習って言えば、上からの俯観はゲームプレヤーの視線、それに対する下からの仰観は、 ゲームプレヤーによって画面の中で操られるキャラクターの視線である。
俯角の画面の中に登場する生き物は、自らの意思を持たず、ゲームプレヤーの意のままに操ることのできる「お人形」であり、 仰角の画面の中に登場する生き物は、手の届かないところからキャラクターを操る絶対権力だ。

近づき易さI

ヴァーチャル空間怖い
空中庭園
俯角と仰角
近づき易さI
近づき易さII
ヴァーチャルまちづくり

アクトシティーの屋上庭園にしつらえられた「階段広場」と良く似たスタイルは、 バンクーバーの元の高等裁判所、現在は美術館として使われている建物と、現在の BC州高等裁判所との間の、ロブソン・スクウェアにも見ることが出来た。


立派な古典様式で辺りを見下ろしていた元の裁判所は美術館になって、イオニア式の列柱の間には展覧会のバナーが下げられている。 風船屋さんが青い風船を売っているのは、道路から1レベル上がった広場で、振り向くと公園の向こうに新しい裁判所が見える。
美術館の正面玄関は道路レベルにあり、上の広場は昔風の建物のそびえ立つ感じを和らげるための屋上広場となっている。


昼休みには近くのオフィス街からちょうど手頃な散策露になりそうな公園を抜けると、 アクトシティーにあるのと似た様なスタイルの斜路付きの階段がある。


アクトシティー屋上の階段広場が残念なことに、地上から階段を上ったところから始まるのに対して、こちらは地上に接しているので、 上まで気軽に登り詰めることができる。振り向くと周辺のオフィス街、右手のデパーと美術館を俯観することが出来、 それらの建物が全て市民サービスのために作られていることが実感できる。こうした空間感覚が俯角の視野の魅力であり、 ここでは幅広の階段はなるべく多くの市民に辺りを俯観してもらうために作られていることが解る。
階段の頂上には池が作られていて、池の水は幅広の布滝になっている。気が付くと滝の奥は事務室になっており、 この階段広場全体が裁判所の事務棟、駐車場の上に作られていることが解る。 植込みを覗き込むと職員は文字通り「草葉の陰」で事務を執っており、 公務員を Public Servant と呼ぶとおり、 この国では「葉隠」が公務員の衿持として保たれていることが解る。

実は裁判所の本館は道路を挟んだ隣の街区にあり、事務棟が道路をまたいで二つの街区を繋いでいる。

容積率の大きく違うロブソン・スクウェア・コンプレックスとアクトシティーを較べるのは酷、というより、 容積率をどう決めるか、という膨大な話になるのでここでは措いて、「広場」へのアクセスに限っておこう。

美術館として再整備された旧裁判所の建物が, 辺りを威圧するようにそびえ建っているのと対照的に、裁判所事務棟の屋上庭園は、なるべく多くの市民が 辺りを見下ろす俯角の視野を楽しむために、デザインされていることを読み取っていただけただろうか。

これに対してアクトシティーの屋上庭園は、学校帰りの高校生などがうろつくのを防ぐような作り方をしているように見える。