1. 「まちなみ」とは
  2. 明治以前のまちなみ
  3. 海外の歴史的まちなみ
  4. 我が国の近代的まちなみ
  5. 北米における近代的まちづくり
  6. 参考図書

5.北米における近代的まちづくり


さて、次はヨーロッパとならんで現在の我々のまちなみに大きな影響を与えている北米の様子を見ます。似た様に見えますがアメリカ合衆国とカナダではまちなみの様子にも違ったところが見受けられます。

「反逆者の造った国」アメリカに対して、カナダは大英帝国の一員であったことを誇りに思っているようです。ブリティッシュ・コロンビア州都であるビクトリアの象徴的中心は、香港と向かいあって太平洋を抑える大英帝国の旧政庁であり、それに隣接するのは「王様と仲間達」の泊まるホテルです。そしてその廻りに「王様と仲間達」の御用を勤めるまちなみが並んでいます。

これに対して国境を越えたシアトルでは、西部開拓時代を思わせる小さな家が今も大事にされており、産業の発展と共に現われたであろう「町屋」建築も残っています。

豊富な自然資源と勤勉を尊ぶピュリタニズム、なにより西部開拓時代に培われた不屈の精神が20世紀をアメリカの世紀にしました。シアトル周辺では西部劇に続いてアラスカのゴールドラッシュの後方基地として、大陸横断鉄道の完成と共に建築用材・パルプの産地として、恐慌後はコロンビア河開発とそれによる電力を利用したアルミ産業が第二次世界大戦では航空機産業を育てました。そして最近ではコンピュータ産業が図のような中心市街地を作り出しています。

この間にアメリカ人の生活を劇的に変化させたのは産業の要請で整備された道路でしょう。今世紀に入ると大量生産技術の開発によってそれまで一部の人々のものでしかなかった自家用車による移動が殆どのアメリカ人にとって手の届くものとなって行きました。

かってF.L.Wright が「あなたの考えているよりも10倍遠くに住みなさい。」と言った通りの郊外住宅が20世紀の豊かなアメリカを象徴するものとして拡がりました。下図に見るシアトル近郊の分譲地はダウンタウンから20マイルほど、高速道路のインターまでここから5分程、高速道路に乗ればダウンタウンにあるインターの降り口まで20分程です。

どこにでも高速道路をほしがる、しかも通行料を払うことなど考えない。というライフスタイルを満足させることが公共財政にとって大きな負担になっているようです。

最近の分譲住宅の特徴は「より豪華に、より安く」です。結果こうしたディズニーランドまがいの建売が増殖します。

「もっと安く。」ということであればモービルハウスがあります。移動式住宅、といっても工場から敷地までの移動しかしないものが殆どです。分譲住宅として売られる場合、小さいものは2万ドル台からあるようです。

もっとも人口の1/7が貧困層(3人家族で年収120万、4人で160万程度)に分類されるアメリカ合衆国ではそうした低所得者用の住宅需要が大きいのですが、お金持ちの、要求レベルの高い日本人の好みに合うかどうかは疑問です。

自動車のおかげで中心市街地からは人口が減り続けます。由緒あるまちなみは観光地として生き延びられるでしょう。そうでない場合、例えばバンクーバーのダウンタウンに隣接したフォールスクリーク一帯は古く寂れかけた工場地帯でした。これらの工場を移転した跡地に大規模再開発によって住商混合の新しい町が出来ました。以前製材工場だったものをショッピングセンターが出来、図の製材工場の事務所は建物をそのままレストランに改造されていました。

入江の北側には高層マンションが建てられています。ダウンタウンの中心から数百メートルしか離れていないという恵まれた立地のせいで結構高いようです。

昔のまま残された工員用の住宅も若い人達には人気があります。これもダウンタウンに近くて安い。自分で手をいれれば立派な住宅に再生できます。

1986年のにバンクーバーで開かれた万国博覧会もこの再開発事業が母体のひとつとなりました。戸建住宅、低層集合住宅も計画された地域に新築されています。

バンクーバーは都市計画地域地区がしっかりした街です。戸建住宅地域、集合住宅地域、低層住宅地域、高層住宅地域というように街なみがしっかり分かれています。その代り地域内の有権者が集まって合意し、都市計画審議会を説得すれば指定の変更が出来ることになっています。そうした例は特に中心市街地では多いようです。

新しい町ではどうでしょう。先ほどはアメリカの例を見ましたが、カナダでも新しい住宅は各々一軒ずつの建物、というよりまちなみを売り物にしていることが多いようです。こちらは低層集合住宅地域。低層木造マンションですが、地下ガレージへのアプローチはレンガ敷にして、庭の一部に見せています。部分によっては思いきって戸建て住宅の雰囲気を出しています。そして同じ面積の戸建て住宅では考えられない、ゆったりした共用部分を取っています。高層住宅地域では「仕方がないから高層」というのでなく、「緑に囲まれた高層住宅が都市住宅の理想」という姿をしています。

こちらはダウンタウンから30分程の郊外分譲地。チューダースタイルの凝った造りは我が国いえば数寄屋造り。一軒だけぽつんとあると厚化粧に見えかねませんが、こうしてまちなみを造れば落ち着いて見えます。

逆に右の図の分譲地は敷地が戸当たり1/2エーカー(600坪)以上という豪華なものでしたが、建物のデザインがばらばらなのでかえってちんちくりんに見えます。ブリティッシュコロンビア大学の先生が「お金持ちは近所の様子が変わってまちなみが気に入らなくなると、引っ越してしまうからまちづくりでは大して力になりません。」と言っていたのを思い出します。

ここは新築ではなく、昔は工場地帯として開発されたというキツラノビーチです。決して大きくも豪華でもなかった家が並んでいますが。手入れが行き届いていて、豊かなまちなみをつくっています。豪華な建物でなくても、皆が大事にすることで建物が輝いてくるようです。

皆が自分の家だけでなくまちなみを大事にする。

というのが、まちなみづくりの秘訣であるようです。