8 教育関連情報
(1)「公共」をどう指導するか
新しい教育基本法では、「公共の精神」がクローズアップされている。これは、本来社会科で育成すべき「公民的資質」にかなり近い概念だ。やや古い情報だが、教育家庭新聞 Mail News Vol.329 2006/05/10に、【教育レポート】シティズンシップ教育とは何か?を紹介されている。「シティズンシップ教育」そのものについては第224回で紹介済みで推進組織までできている。
http://www.citizenship.jp/
−−−−−−−−−−以下引用です。−−−−−−−−−−−
■シティズンシップ教育とは、
社会的スキルを学ぶもの
「シティズンシップ教育と経済社会での人々の活躍についての研究会」の報告書(以下、「2005年研究会報告書」)によれば、シティズンシップ教育とは
「他人を尊重することの大切さ、個人としての権利とそれに伴う責任、正しい行い、人種・文化の多様性の価値など、子どもたちが身に付けるべき社会的スキル(Social Skills)を学ぶ機会を提供するもの」
となっている。また、その目的は
「社会の一員として、地域や社会での課題を見つけ、その解決やサービス提供に関わることによって、急速に変革する社会の中でも、自分を守ると同時に他者との適切な関係を築き、職に就いて豊かな生活を送り、個性を発揮し、自己実現を行い、さらによりよい社会づくりに参加・貢献するために必要な能力を身に付ける」
となっている。合理的な意思決定をそのベースとして置く金融教育や経済教育、起業家教育などとくらべ、他と関わっていく社会的スキル(Social Skills)を重視する視点だといえるだろう。
■シティズンシップ教育に
注目する背景
日本でも今後、社会の階層化が進むことだろうと予測されている。さまざまな統計で、所得、職業、学力などに関して、格差が拡大・固定される傾向が見られるからである。また、経済のグローバル化が進むと、さまざまな出自であるメンバーがひとつの社会を構成する必要がでてくるとも考えられている。
出自や可処分所得レベルの大きく異なるメンバーからなる集団となっていく日本社会において、よりよい参加型民主主義社会を形成するためには、異質な他者が互いに交流し合える公共性を成立させる軸が必要となる。その軸として、ソーシャルスキルを基にするシティズンシップに注目するというわけである。
■シティズンシップ教育で求めるもの
意識、知識、スキル
2005年研究会報告書では、シティズンシップを発揮するために、(1)意識(2)知識(3)スキルが必要であるとして、これらを身に着ける教育が必要であるとしている。
それぞれの具体的な内容は、
(1)意識
○自分自身に関する意識
向上心、探究心、学習意欲、労働意欲など
○他者との関わりに関する意識
人権・尊厳の尊重、多様性・多文化の尊重、異質な他者への敬意と寛容、相互扶助意識、ボランティア精神など
○社会への参画に関する意識
法令・規範の遵守、政治への参画、社会に関与し貢献しようとする意識、環境との共生や持続的な発展を考える意識など
(2)知識
シティズンシップが不可欠な「公的・共同的な活動」「政治活動」「経済活動」の3分野で必要となる知識
(3)スキル
○自己・他者・社会の状態や関係性を客観的・批判的に認識・理解するためのスキル
自分のことを客観的に認識する力、他者のことを理解する力、ものごとを俯瞰的にとらえ全体を把握する力、ものごとを批判的に見る力など
○情報や知識を効果的に収集し、正しく理解・判断するためのスキル
大量の情報の中から必要なものを収集し、効果的な分析を行う力、ICT・メディアリテラシー、価値判断力、論理的思考力、課題を設定する力、計画・構想力など
○他者とともに社会の中で、自分の意見を表明し、他人の意見を聞き、意思決定し、実行するためのスキル
プレゼンテーション力、ヒアリング力、ディベート力、リーダーシップ、フォロワーシップ(多様な考え方や価値観の社会や組織の中で、批判的な目でチェック機能を果たしたり、リーダーの意を汲んで行動したり、適切な役割を果たす力)、異なる意見を最終的には集約する力、交渉力、マネジメント力、紛争を解決する力、リスクや危機に対応する力など
■シティズンシップ教育のかたち
体験型の学習を通じ、教科の中で浸透させる
また、上記報告書では、これらは体験を通じての理解深化につとめるべきだとされている。なぜなら、
「これらの知識の大部分は、公民をはじめとする既存の教科の中で既に取り上げられているものです。したがって、シティズンシップ教育の具体的なプログラムを展開する際には、こうした既存教科との連携・分担を図るとともに、体験等を通じて知識の理解を深める手法に重点を置くことが必要」(2005年研究会報告書)だからである。
シティズンシップ教育は、イギリスで展開されてきたものだ。イギリスでは、シティズンシップ教育は、「総合的な学習の時間」のような個別教科としてではなく、全教科を縫う縦糸として、義務教育カリキュラムの中に取り入れられている。シティズンシップ教育の理念、手法、求めるものを、一般科目の中で達成していくようにカリキュラム構成をするという試みをしているのだ。それは、ある意味、日本でも地域的に行われている、協同教育の取り組みに形としては近いかもしれない。
(2) 義務教育「4年制」など10の提言 世界を考える京都座会
石井威望・東大名誉教授、作家の堺屋太一氏らが参加した「世界を考える京都座会」は11日、10項目に及ぶ教育再生への緊急提言を公表した。同日、提言書は伊吹文科相、自民党に提出した
緊急提言では、学校設立や学校選択、教員任用、教育の内容の自由化などによって学校や教師など教育サービスの提供者間への競争原理を導入する「教育の自由化」や、道州制をベースにした教育改革の「分権化」を求めた。
また、義務教育を「4年制」として6歳から9歳までに「読み、書き、算数、道徳」を教え込み、この間の教育費は完全バウチャー制として無償化する。10歳からの中・高校は既存の塾なども含めて学校として承認し、希望する学校に進学させる、という。
☆★☆★ コメント ☆★☆★
「世界を考える京都座会」とは何か?これは、松下幸之助が、昭和58年4月、「今日、世界は総混乱、総混迷にあり、一大転機に直面している」との認識に立ち、新研究提言機構として発足させたものだ。同会は、相談役を座長に、11人の学識経験者を基本委員として、3〜4年後をめどに研究成果をまとめようとした。当時の基本委員とは、天谷直弘氏(産業研究所顧問)、飯田経夫氏(名古屋大学教授)、石井威望氏(東京大学教授)、牛尾治朗(ウシオ電機会長)、加藤寛氏(慶応義塾大学教授)、高坂正堯氏(京都大学教授)、斎藤精一郎氏(立教大学教授)、堺屋太一氏(作家)、広中平祐氏(京都大学教授)、山本七平氏(山本書店店主)、渡部昇一氏(上智大学教授)の諸氏であった。そして実際に、『 世界を考える 京都座会からの発言 −21世紀の理念と方策を求めて−』という本を出している。今回の提言が実現するとは思えないが、考え方の一つとしてあることを知っていることは大切なことだ。
(3)平成19年度全国学力・学習状況調査の予備調査の問題例
11月6日から12月15日にかけて全国学力・学習状況調査の予備調査を実施。予備調査において出題した一部の問題と質問紙調査の内容を公開。学習指導要領における小学校5年又は中学校2年までの内容で、「知識」と「活用」の2種類の問題を出題。
【調査問題の内容について】
○ 出題範囲;学習指導要領における小学校第5学年又は中学校第2学年までの内容
○ 問題の種類;「知識」と「活用」の2種類の問題を出題
国語A、算数・数学A…主として「知識」
・ 身につけておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容
・ 実生活において不可欠であり、常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能
国語B、算数・数学B…主として「活用」
・ 知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力
・ 様々な課題解決のための構想を立て、実践し、評価・改善する力
【教科に関する調査の内容(今回の予備調査)】
国語 主として「知識」
・ 漢字の読み書き、言葉の意味
・ 目的や場面に応じた言葉の使い方
・ 情報を整理してまとめること
・ 文章のテーマなどに関する情報の取り出し
主として「活用」
・ 伝えるべき内容を整理して、文章に表現すること
・ 筆者の主張を評価したり、表現を工夫しながら自分の考えを書くこと
・ 文章やグラフ・図表等を読み取り、意見をまとめること
算数・数学
主として「知識」
・+−×÷( )の演算順序を意識して正しく計算すること
・ 図形の性質を理解し、角度や面積などを求めること
・ グラフから変化の様子を読み取ること
・ 確率の意味を理解し、求めること
主として「活用」
・ 図やグラフから必要な情報を分類、整理、比較するなどして、問題の解決に役立てること
・ 問題の中から規則性を見つけて、考え、表現すること
・ 実生活などの様々な場面における数量やデータを比較、整理し、自分の考えを分かりやすく説明すること
【質問紙調査の内容(今回の予備調査)】
・児童・生徒質問紙(小・中学校): 小学校6年生及び中学校3年生が回答する生活習慣や学習環境等に関する調査
・学校質問紙(小・中学校): 校長が回答する指導内容や指導方法等に関する調査
☆★☆★ コメント ☆★☆★
問題例を見た。事前に練習した者としていない者とではある程度の差が付くだろう。しかしそれは問題にしない。
話題になった多比良教授らの東大論文疑惑は、1月10日のNHKクローズアップ現代を見る限り、疑惑は全く解消されていない。それどころか、競争原理から来る弊害として、藤村新一旧石器捏造事件とダブって見えた。これは、JR福知山線脱線事故の高見隆二郎運転士の心理、学校いじめゼロでの報告ともつながる点がある。
はっきりしているのは、(競争原理の全てが悪いとは言わないが、)競争原理が弊害をもたらす場合があるという危機管理意識を常に持っていないといけないということだ。
全国学力・学習状況調査も同様だ。理想と現実が乖離し、同じような事件が必ず起こる。
(4)「子ども省」構想浮上
少子化対策の縦割り解消へ
行政の縦割りを廃して少子化対策を一元的に実行するため、「子ども省」を創設する構想が、政府・与党で浮上している。安倍晋三首相は25日召集予定の通常国会での施政方針演説で、少子化対策に内閣の総力を挙げる姿勢をあらためて示す方針だが、その目玉として、子ども省構想が具体化へ動きだしそうだ。
子ども省は(1)子育て支援税制(2)施設不足で保育所に入れない待機児童の削減(3)女性の再就職支援−の少子化対策を主管する役所で、児童虐待やいじめから子どもを守るための諸施策まで範囲を広げることも想定されている。
こうした子どもに関する政策は、厚生労働、文部科学など複数の省庁にまたがっているため、効率よく進まない。この弊害を解消しようというのが子ども省構想だ。
諸外国ではドイツが「家庭省」、ノルウェーが「児童家庭省」を設け、少子化、子どもについての政策を一元的に行っている。韓国は2005年に「女性家族省」を新設した。
☆★☆★ コメント ☆★☆★
中日新聞グループで大きく取り上げられた「子ども省」だが、他の新聞ではほとんど相手にされていない。ただ、教育界にはとても大きなことなので、今後も注視する必要がある。
(5)教育家庭新聞より
●定年退職校長を校長として再任用【横浜市教委】 (2007年01月05日)
横浜市教育委員会では今年度末に定年退職する校長の中から、実績があり、優れたリーダーシップが期待できる意欲ある者を校長として、来年度から再任用する。
また、昨年度に引き続き、市政運営にリーダーシップを発揮している本市管理職を対象に校長ポストの庁内公募を行うとともに、新たに副校長ポストについても庁内公募を行う。
●学校評価結果をHP上に公開【東京都杉並区】 (2007年01月05日)
東京都杉並区では平成17年度学校評価の結果をHP上に公開している。杉並区では平成14年度から児童・生徒、教員、保護者、学校評議員による学校評価を実施してきたが、平成17年度は、小・中学校に加え、幼稚園や養護学校も統一した評価項目による学校評価を実施した。
☆★☆★ コメント ☆★☆★
横浜市の校長の再任用の記事は「ついに来たか」という印象だ。これがあるなら、今後日本の就労形態が大きく変わる。事実上の定年延長、しかも人件費を抑えている。
学校評価の記事は、実際に杉並区のサイトにリンクしており、すぐに結果を見ることができる。学校名も出てくるが、いたずらに競争を煽るという感じはしなかった。ただ、学校評価を状況改善につなげようとするなら、もう一工夫欲しいところだ。
9 MM紹介
(1) 教育情報 Magazine/ある小学校教師の独り言 Vol71 2006. 7/19(WED)
1年を振り返るのは大切である。数多くの教育系MMに触れて、最も印象に残ったものを考えるのも無意味ではあるまい。そうしてみると、次に紹介するMMを避けて通ることはできない。
個人的な2006年MM大賞は、次に授与したい。
それは、教育情報 Magazine/ある小学校教師の独り言 Vol71 2006. 7/19(WED)
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[1]学習指導要領改訂の歴史
明治大学の諸富祥彦氏が保護者のタイプについて,著書「子供より親が怖い」で次のように述べています。
「現在の学校では,それぞれの時代に育った子が保護者になっている。つまり山口百恵型,松田聖子型,宇多田ひかる型の母親・・・。」
この3つのタイプの母親が義務教育を受けた期間が,指導要領改訂時期と一致しているのです。
「3つのタイプの母親」についての詳細は
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学習指導要領は,戦後の教育界の混迷を打開するため,昭和22年3月に「教科課程,教育内容及びその取扱いの基準」として,初めて刊行されて以来,社会の発展と児童生徒の発達等に即し,凡そ10年毎に改訂が行われてきました。
その改訂の歴史は,わが国の教育の20世紀から21世紀への発展の歩みであり,この改訂をふまえて,今回の改訂の趣旨を理解し,学校の教育課程の編成と実施に生かすことが必要ではないかと考え,学習指導要領の歴史を簡単に振り返ってみますした。
1.昭和22年の学習指導要領(試案)
2.昭和26年の学習指導要領(試案)
3.昭和33年の改訂(教育課程の基準として規定)
4.昭和43年の改訂
5.昭和52年の改訂
6.平成元年の改訂
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1.昭和22年の学習指導要領(試案)
―戦後の混迷から民主教育への出発―
○従来の修身,日本歴史及び日本地理を廃し,「社会科」を新設するとともに,男女共に学習する「家庭科」を設ける。
○児童の自発的活動を促進するために,「自由研究」を設ける。
○各教科の年間総授業時数と週授業時数を併せ示す。
2.昭和26年の学習指導要領(試案)
―教科を四つの経験領域に分け,教科間の関連を図る―
従来の「教科課程」の語を,「教育課程」と改める。
○教科を,学習の基礎となる教科(国語・算数),社会や自然についての問題解決を図る教科(社会・理科),主として創造的な表現活動を行う教科(音楽・図画工作・家庭),健康の保持増進を図る教科(体育)の四つの経験領域に分ける。
○毛筆学習は,国語学習の一部として,第4学年から課するようにする。
○自由研究を発展的に解消し,「教科以外の活動の時間」を設ける。
○道徳教育は,学校教育のあらゆる機会に指導すべきであるとした。
○各経験領域に充てる授業時数を,教科の総授業時数に対する比率で示した。
3.昭和33年の改訂(教育課程の基準として規定)
―経験主義教育を是正し,系統的学習の重視と基礎学力の育成―
○学習指導要領は教育課程の基準として文部大臣が公示するものであるとした。
○道徳の時間を特設し,道徳教育の徹底を図る。
○基礎学力としての国語,算数の充実と,科学技術教育の向上を図るために算数,理科の充実。
○各教科の系統性を重視し,目標及び内容の精選と基本的事項の学習に重点を置く。
4.昭和43年の改訂
―調和と統一のある教育課程の編成と実施―
○小学校の教育課程を,各教科・道徳・特別活動の三領域と定める。
○人間形成の上から調和と統一のある教育課程の実現を図る。
○授業時数を,最低時数から標準時数に改める。
5.昭和52年の改訂
―児童の学校生活に,ゆとりと充実をもたせる―
○知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな児童の育成を図る。
○各教科の基礎的・基本的事項を重視し指導内容を精選し,創造的能力の育成を図る。
○ゆとりと充実した学校生活を実現するために,各教科の標準時数を削減する。
○各教科等の目標・内容を中核的な事項に止め,学校や教師の創意工夫ができるようにした。
6.平成元年の改訂
―新しい学力観に立つ教育と個性重視の教育―
○教育活動全体を通じて,豊かな心をもち,たくましく生きる人間の育成を図る。
○基礎・基本の重視と個性教育の推進を図る。
○文化と伝統の尊重と,国際理解の推進を図る。
○低学年に,新教科として「生活科」を新設し,社会科・理科を廃止する。
○学級会活動と学級指導を統合して「学級活動」とする。
〈転載:出典不明〉
[2]子どもは「発表」させられている?
研究授業でよく「発表会」の場面が公開されます。これに対して有田和正先生が次のように言われています。
「かっこよく発表させて『よくやってるな』と思わせようとしていることが見え見えの発表もある」
「練習に練習を重ねて,発表内容を覚えさせ,何も見ないで発表させている。子どもたちは覚えたことを思い出そうと,目を白黒させたり,・・・・」
「5〜6人のグループの子どもが,全員声をそろえて,呼びかけのような研究発表をしていている。これは研究発表ではない。劇である」
……………………………………………………………………………………………………
皆さんも「そういえばそういう授業見たことあるなあ」とお思いでしょう。有田先生は次のようなことも言われています。
「子どもが発表したくなるようにすることが教師の力量である。発表したくなるような追究がなされていないことが大きな原因」
発表の時間だけをとらえて論じることはナンセンスでしょう。既にスタートの時点から問題あり,なのです。懸命に追究してきた子どもたちは発表したくてたまらないのです。
要は追究の過程です。
有田先生とある学校の研究発表会でお会いし,その日の公開授業についてお話したことがあります。有田先生は「内容のある追究を重ねた結果,発表したくなるような内容を持っている」とほめておられました。発表会の場面だけを見ても,そこまでの過程はわかるものなのです。
最後にひと言。私は発表会の場面を研究授業とすることには常々反対しています。私たちが見たいには「過程」なのですから。「過程」を公開してこそ後の協議会が盛り上がると言うものです。
−−−−−−−−−−−−−引用終わり−−−−−−−−−−−−−−−−−
読んでいただければ、受賞理由はわかっていただけると思う。2007年も良質のMMが広がることを祈念したい。
(2)情報教育の教育現場での実践をサポートする[続々火曜の会メールマガジン]第20号
今回は、[4] 情報モラルを考える(第1回) 「情報モラルの定義」を紹介します。
−−−−−−−−−−−−−−−以下引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[4] 情報モラルを考える(第1回) 情報モラルの定義 目白大学 原 克彦
第1回目は、「情報モラル」の定義についてです。これまで公的な機関が発表している、いくつかの報告書や資料の中に記載されている「情報モラル」に関する内容を拾い集めながら、現時点で最もふさわしい「情報モラル」の定義を20年前にさかのぼり、少し歴史的なことも含めて一緒に考えてください。
(1) 昭和62年の臨時教育審議会最終答申
「情報モラル」という言葉が、公に使われたのは、昭和62年の臨時教育審議会の最終答申の中だとされています。(私は、まだ小学校の教員で、情報モラルという言葉も知らずに授業でコンピュータを利用していました。)この答申の第三章第五節の「情報化への対応のための改革」では、当時の情報技術をはじめとする情報化社会に対する教育の対応が具体的に提言されています。その最初の項目として「情報モラルの確立」が取り上げられ、『情報化社会においては、自己の発信する情報が他の人々や社会に及ぼす影響を十分に認識し、将来を見込んだ新しい倫理・道徳の確立、新しい常識の確立、情報価値の認識の向上など発信の在り方についての基本認識−「情報モラル」を確立する必要がある。』と記述されています。第三次答申では『情報化社会においては、人々が、情報内容、情報手段を含めて情報の在り方についての基本認識』となっていたので、情報発信や倫理・道徳といった内容が付加されているのが分かりま
す。
今から約20年前のこの答申には、現在の私たちが直面している現象を予測して、情報モラルは社会の変化と共に変える必要があることを示唆していたと読み取れます。これ以前にも、情報化のマイナス要因に対する教育の対応や、情報化の光と影への教育の対応などについても検討されていましたが、「情報モラル」として登場したのは、この答申が最初でした。そして、第三次答申では、『「情報モラル」は、交通道徳や自動車のブレーキに相当するものであり、これらが得られて初めて安全で快適な高速走行が可能となるように、「情報モラル」の確立が、情報機能を最大限に発揮するための前提となる。』とも記述されています。そして答申全体の基調としては、情報価値をよく理解し、積極的に「光」の部分を推進するとなっています。
(2) 平成8年の第15期中央教育審議会第一次答申、翌年の第二次答申
今から10年前に出された第15期中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」では、「情報モラル」の内容が具体的に示されました。例えば、第3章の情報化と教育では、情報化の「影」の部分への対応の節の中に、「プライバシーの保護」や「著作権についての正しい理解」「ハッカー等は許さない」「コンピュータセキュリティの必要性に対する理解」などがあげられています。情報社会の背景としては、インターネットが普及し始め、コンピュータを扱う専門家だけではなく、一般の利用者がコンピュータネットワークを普通に利用し始め、様々な危険性が予見される時期だったと言
えます。
翌年に発表された第二次答申では、中高一貫教育の導入の具体的な在り方の中の「情報化に対応する教育を重視する学校」の部分で、「情報化に対応する教育を重視する観点を軸に据えて、6年間にわたり、十分な時間をかけてインターネットなどの情報ネットワークを活用したり、情報リテラシーを体系的に育成したり、情報モラルをしっかりと身に付けさせるような教育活動を積極的に取り入れていくことが期待される。」と記述されています。
いずれにしても、情報モラルの明確な定義はありません。
(3) 情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて(平成10年8月)
現在の情報教育の目標などが位置づけられた、「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議最終報告」では、その3つの目標の中に「情報モラル」が規定されています。それは、「社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度(情報社会に参画する態度)」という部分です。さらに、その学習の範囲として、情報技術と生活や産業、コンピュータに依存した社会の問題点、情報モラル・マナー、プライバシー、著作権、コンピュータ犯罪、コンピュータセキュリティ、マスメディアの社会への影響などがあげられており、情報モラルの位置づけが分かります。参考
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/002/index.htm (文部科学省)
(4) 現行の学習指導要領(平成10年12月、平成11年3月)
さて、現在使っている学習指導要領では、情報モラルをどのように取り扱っているのでしょう。中学校の技術・家庭の「情報とコンピュータ」では、「情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り、情報モラルの必要性について考えること。」という一文があります。
一方、高等学校の教科「情報」では、各科目にわたる内容の取扱いの中で、「各科目の指導においては、内容の全体を通して情報モラルの育成を図ること。」と記述されており、情報A・情報B・情報Cの科目での指導が明記されています。そこで、各科目から該当する部分を抜き出すと、「情報A」では、「情報の伝達手段の信頼性、情報の信憑性、情報発信に当たっての個人の責任、プライバシーや著作権への配慮などを扱う」がそれにあたる考えられます。また、「情報C」では「情報の保護の必要性については、プライバシーや著作権の観点から扱い、情報の収集・発信に伴って発生する問題については、誤った情報や偏った情報が人間の判断に及ぼす影響、不適切な情報への対処法などの観点から扱う」となっていますが、情報Bからは抽出できませんでした。このほかにも、高等学校では、専門の「情報」や「家庭」「福祉」の教科の中に情報モラルの理解についての記述が見られます。これらを見てみると、情報モラルの多くが、情報を扱う人の責任に関する部分に集約されているようにも考えられます。
(5) 平成14年度版 新「情報教育に関する手引き」(平成14年6月)
平成2年7月に当時の文部省が作成した「情報教育に関する手引」の改訂版
として登場した『情報教育の実践と学校の情報化〜新「情報教育に関する手引」〜』は、情報教育を進める先生方のバイブルとなっています。その中のコラムとして記載されている「コミュニケーションと情報モラルの育成」の「基本的な考え方」中には、次のように記述されています。『情報モラルは、情報社会において、適正な活動を行うための基になる考え方と態度であり、日常生活上のモラルに加えて、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報技術の特性と、情報技術の利用によって文化的・社会的なコミュニケーションの範囲や深度などが変化する特性を踏まえて、適正な活動を行うための考え方と態度が含まれる。』簡単に書くと、『情報社会において、適正な活動を行うための基になる考え方と態度』ということになります。参考
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/020706.htm (文部科学省)
10 研究会情報
(1)平成18年度Eスクエア・エボリューション成果発表会開催(概要)ご紹介。
■テーマ:教育・学習・校務環境の多様化への対応(仮題)
■主 催:経済産業省、財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)
■後 援:文部科学省ほか
■日 時:平成19年3月2日(金)12:50〜18:00(12:00開場)
3月3日(土) 9:00〜12:30( 8:00開場)
■場 所:東京ファッションタウンビル 西館
■プログラム(変更になる場合があります。)
3月2日(金)
・開会式・事業説明・基調講演 講師:中川 正樹氏(東京農工大学 教授)
・(分科会A )「Open School Platform」プロジェクト発表
OSPミニ討論 −OSPについて語ろう−
・(分科会B )教育のIT活用をリードするEスクエア(仮題)
・(分科会C-1)学校等が主体となって実践したIT活用教育事例※
・(分科会D )学校情報セキュリティーワークショップ
・企業・団体展示コーナー(IT機器・ソフト等の展示を予定)
3月3日(土)
・(分科会E )学校情報セキュリティ事業発表
・(分科会F )東京都からの発信 PartU
・(分科会C-2)学校等が主体となって実践したIT活用教育事例※
・(分科会G )OSPワークショップ
・ 企業・団体展示コーナー(IT機器・ソフト等の展示を予定)
・パネルディスカッション
テーマ:「教育・学習環境の多様化への対応」
コーディネータ−:赤堀 侃司 氏(東京工業大学 教授)
尚、隣接の東京ファッションタウンビル東館では
3月2日:文部科学省、デジタル放送教育活用促進協議会主催
「地上デジタルテレビ放送の教育活用促進事業」成果発表会
土井も二日目に参加予定です。
(2)三重大学教育学部附属小学校公開授業研究会
平成19年2月10日(土)
受 付 8:20〜 9:00
公開授業T 9:00〜 9:45 公開授業U 10:00〜10:45 研究協議T 11:15〜12:30
研究協議U 13:40〜14:50
講 演 15:00〜16:30 演題「ゾウの時間・ネズミの時間・教育の時間」
東京工業大学大学院 生命工学研究科教授 本川達雄先生
問い合わせは 土井謙次 syaraku@tcp-ip.or.jp