2008.1.1
-幻の近代都市住宅
-幻の近代都市
-幻の近代住宅
-中心市街地に住む
-木の家に住む
-市中山居
-外壁のこと

「市中山居」つまり中心市街地に住みながら,山の中に住んでいる様な住み心地、というのが長い間我が国の理想的な住居のあり方でした。こうした理想の住居は掛け軸で見ることが出来ます。近景遠景ともに岩山がそばだっています。そしてその岩陰に粗末な草葺きの庵があり、中で人物が読書にふけっていたりします。岩山の向うは湖であったり、ゆったりと流れる河であったりして、小舟が浮かんでいることもあります。

掛軸の絵柄の定番であるこの「シンプルライフ」というテーマは、室町時代に流行った南画が原型となっている様です。こうした掛軸が京都の街中の路地の奥や、本所・深川・向島の寮の離れに掛けられていたのでしょう。

理想郷というより、本当はこうして暮らしたいのだが、諸般の事情から俗塵にまみれて暮らさなくてはならない、という人々にとっての「あこがれ」として、こんな掛軸が量産されたのかもしれません。

山中の明窓浄机に天下国家を考究したいのだが、民主主義とやらでアホな選挙民のレヴェルに合わせ、男妾の如き笑顔を振りまかなくてはならない、という方たちの思いも千年年前の思想家たちと変わらないかもしれません。

外部環境に関わらず、室内にヴァーチャルワールドを作り出してしまう技術、とも言えそうです。そう考えると「癒し」を求めて止まない現代人にも、そっくり当てはまりそうなテーマではないでしょうか。外界の俗塵益々激しさを増す今日、市中山居は益々輝きを増しています。