2008.1.1
-幻の近代都市住宅
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火か毒ガスか

中心市街地に木の家を建てるのはなかなか大変です。火事で燃えない様にしなければなりません。郊外でまわりに充分な空地が有れば、台所など火を使う部分を燃えない様にすれば良いのですが,中心市街地で防火の指定が有ると、外側も燃えない材料で作らなければなりません。

ところがこの「燃えない材料」というのが鉄やコンクリートの様に,肌に触れた時に嫌な感じのするものであったり,プラスチック系の「燃えにくいのだが,いざ燃える時には毒ガスを発生する」たぐいのものが結構あります。市街地の火事でガスによる犠牲者が増えているのもこれと関係がありそうです。身体にさわる部分は自然の木が一番良いのですが。

木は断熱材

このところテレビでは「鉄骨ラーメン」のコマーシャルをやっていますが、鉄骨の住宅というのもなかなか難しそうです。鉄は熱を良く伝えるので、家の外側が釘やボルトなどで骨組に取り付けてあると、骨組の温度が外気に近いものになってしまいます。

こたつと火鉢の廻りだけが暖かければ満足出来た、一昔前の暮らしではこれで充分なのでしょうが、家全体を快適な温度に保つのは難しい様です。室内に面した部分を室温に近く保つためには、どこかで熱を断ってやらなくてはなりません。そのために骨組ー下地材ー仕上げ材を、様々な材料から組み合わせて作る、ということになります。グラスウールに代表される様な、健康上問題のある建材でも、肌に触れない部分であれば使おうというのが現状です。

木材は断熱材としても優れた材料なので、骨組ー下地材ー仕上げ材を全てを、自然の材料でまかなうことが出来ます。プラスチック系の材料を使わないで済むだけでも、気持ちのよい家を作ることが出来ます。

ちょっと外壁に付いて考えてみました。

今だに戦災復興住宅

木造建築の課題は防火だけではありません。現在の所、「木造ラーメン」を作ることが法規上困難なのです。現在の建築基準法は昭和24年に作られた、構造規定が元になっています。当時の住宅建築の課題は、限られた木材で安全な住宅を大量に供給する、というものでした。

現在では考えられない9センチ角の柱でどうやって家を建てるか、という課題に対して筋違いが採用されました。ツーバイフォー同様、壁で地震力に備える、というものです。これによって1,000年以上の伝統を持つ木造ラーメン構造である大黒柱は「禁じ手」となってしまいました。街道筋の宿場町の様に、木造ラーメンによって通り沿いを壁の無い全面開口とするような建て方は、現在では特殊な工法となってしまいます。地震力を中心となる柱に集中させて、この柱を必要な太さにする、という大黒柱構造、あるいは鉄骨構造で行われる様な、門の形をしたラーメン構造が木造で可能になれば、木造住宅の可能性は大いに広がると思われます。





世界一のバイオマス建築

浜松市は「火事と喧嘩」が名物であった江戸の住宅を支えた天竜杉の山元です。しかし最近元気がありません。北米などで、バリカンで原生林を刈り取る様にして生産された材木に比べ、数百年にわたり美しく手入れされた森林環境を守ろうとすると、割高になるからです。設計者が工夫をして少しでも地元材を使おう、という試みもしてきましたが、微々たるもので心が痛みます。

しかしもう少し大きな目で見ると,天竜材を含めた日本の木造建築文化は、21世紀には見直されることになると思います。生活の近代化とともに世界の水需要は増え続けており、20世紀が領土戦争の時代であったのに対し、21世紀は水戦争の時代になる、とも言われているようです。特に現在世界の穀倉となっている米国の中西部では、近代的な大規模農業によって、オガララ含水帯など、ロッキー山脈に1万年以上掛かって貯まった地下水が、200年で消費されてしまう、とのことです。

これに対し日本は先進国の中でもトップクラスの年間降水量を持っています。しかも世界で唯一の「森を育てる文化」を守ってきました。鉄・コンクリートといった、有限資源に依存してきた西欧文明が、地球環境の限界に気付き、生物に由来する資源として「バイオマス」と言い立てています。数千年にわたって磨かれてきた、日本の木造住宅はこの「バイオマス建築」として世界の一級品です。100年単位で世界の環境を考えて、天竜の美林を守るために何をすべきか考える時でしょう。