2003.6.15

陰暦9月15・16日という祭りが終わると舞阪港は牡蠣・海苔という冬の漁に入る。 魚政のオヤジはそれでも枕崎辺りからの送りの鰹を使って塩辛を作るのだが、師走に入り豆州田子港から塩鰹を取り寄せた。正月用の鰹の塩蔵醗酵品なのだが、私はこれが平安時代に税として京都に送られたという「麁堅魚」ナルモノではないかと考えている。

ヨースルに鰹が姿はそのままに塩辛と化したもの、と考えてよい。御祝儀ものなので立派な尾頭付きで、泳ぐ姿そのままに硬くなっている。しかしこれが飾り包丁というのであろう、腹から包丁を入れて外からは見えないように三枚に下ろしてあるのだ。元来は正月飾り好適品なのであろうが、最近我が家の周辺も烏が増えて軒下に吊るしておけば間違いなく食われてしまう。仕方無しに三枚に下ろして冷蔵庫の「干物製造コーナー」へ納めた。鼻を近付けるとほのかに鰹の香りがして旨そうなのだが、家人は「冷蔵庫中魚臭くなってしまう」と不満である。これを良くきれる包丁で1mm程の輪切りにすると、ちょうど鰹節に塩を利かしたのが柔らかい、という状態で実に美しいルビー色をしている。ビールによし、日本酒によし、茶漬けにするとまた旨い。中落ちを一週間掛けてしゃぶり、正月までに片身の4/10程を食ってしまったが、節約すれば初鰹の頃まで保たせられそうだ。

明治初期の「おかず番付」を見ると前頭19枚目なので、当時はまだごく普通の食べ物であったことが分かる。それが鮪の脂身みたいなネコマタにやられてしまったのは残念なことだが、鮪の脂身やら牛の脂身やらの食い過ぎで国民皆糖尿病となった今、塩鰹のような「平安時代の旨いのもの」の類いがもう少し見直されても良いと思う。

夏にはアンダルシアへ遊びにいった友人から生ハムを土産にもらった。食べてみて吃驚したのは、結構丁字が利いていたのだ。つまり中華街につる下がっている腸詰めと同じ系統の香りだ。考えてみれば当時のスペイン人は生ハムに入れる丁字欲しさに世界を征服してしまったのかもしれない。しかし七つの海を征服した後も長く丁字のような高級食肉保存料は貴重品であったはずで、塩蔵というのがもっとも普通の食肉保存法であったろう。私などコンビーフといって思い出すのは「馬肉コンビーフ」であるか、そのお手本となったリビーの黒缶なのだが、字引きをめくると"coned beef" = 塩漬け牛肉と有る通り、世に缶詰というものが現れるまでの数百年間、コンビーフは我々が思い浮かべる缶詰とはにても似つかぬ牛肉の塩漬けであったはずだ。

生ハム=高級珍味=マドリッド国際空港の土産物屋で買える、ノデアルが、缶詰以前の牛肉塩漬け=惣菜=食生活の変化と共に消えてしまった、かというと、それがそうでもないことを先日は発見することが出来た。浜松市内在住のブラジルの御夫人方が買い物をする食料品店にそれはあった。パックに入った岩塩のようなものが有るので、なんだろうと取ってみると牛肉の塩漬けとモツの塩漬けだった。当然モツの方が高い。肉よりモツの方が旨いことは、スズメのキモだけ食って肉は捨てちまう我が家のネコでも知っておることで、モツ=放るもんだと思っている日本人は、肉を食うことを100年前に覚えたところで、どう食えば旨いかを知らないことはネコ以下、ということだろう。ともかくモツは高くて手が届かないので、塩漬け肉だけ買ってみた。どうやって食べるか聞くと、「半日ぐらい塩出しをして、野菜と煮る」ということ以上に要領を得ない。国際空港の土産物屋や料亭で出す高級食材というより、家庭惣菜の材料ということらしい。野菜スープを作ってみると、うーん、七つの海を征服したポルトガル王国の味がする。

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