2008.11.17
言わんこっちゃない
建築審査会の付言
浜松市都市計画マスタープラン
建築審査会
完成予想図2
Forest Park
完成予想図
ふさわしいか
臨江山の住宅地の景観
ブルーな話
入野臨江山のまちづくり

60/200を考える
住宅地の密度
住宅地の近代
外壁のはなし

「浜松市都市計画マスタープラン」というのがあるのをご存知でしょうか。浜松市の都市計画の基本方針です。しかし「まちづくり」という言葉があちこちで聞かれる程には、「都市計画って、家を壊して交差点を拡げているヤツだろ。」というわけで「都市計画マスタープラン」という言葉は聞き慣れない、という方が多いのではないかと思います。

交差点を拡げて、便利になるのは実感出来るのですが、それを積み重ねてどのような未来を造ろうとしているのか、というところまではなかなか実感がわかないのでしょう。

都市は「道路を拡げる」というような都市計画事業だけでは造れません。下池交差点と鹿谷交差点の流れが良くなることで、一体どんな浜松が造られて行くのか、といった将来像が市民の視点でを描かれ、それを共有することで、初めて都市の将来が決まります。これが「都市計画マスタープラン」です。

ところが現実には都市計画を熟知しているはずの建築士でも、なかなか浜松市の将来像、となるときちんと捉えているとばかりは言えません。建物の用途・高さといった、「都市計画マスタープラン」に従って決められた基準には従わなくてはいけないので、良く知っては居るものの、そうした基準を決めることで、浜松市のどんな将来像が描かれるかと言うと、建物が建ってしまえば仕方が無い、という程度であることも考えられます。

佐鳴湖西岸に高層マンションが建つ、ということで「そんな馬鹿な」と寝耳に水の住民が浜松市の建築審査会に「どーにかしてくれ」と願い出ました。

開発業者さんは「建築基準は遵守してますよ。」と迷惑そうです。浜松市にはマンション紛争が多くて困る、というわけで「浜松市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整に関する条例」というものがあのですが、これも罰則規定があある訳ではなく、「近所の人に説明しようと思ったけど、聞いてくれませんでした。」ということになってしまっている様です。

常日頃法令だけでなく、市条例も遵守することが前提になっている建築士の立場からは、「市条例は法ではないから、守らなくて良い。」というのはちょっと理解出来ません。

都市計画法には

国及び地方公共団体は、都市の住民に対し、都市計画に関する知識の普及及び情報の提供に努めなければならない。
という条文があります。「守って下さいよ」という仕掛けの建築基準法には無い表現です。基準を守れば都市が造れるという訳ではないヨ、ということでしょう。浜松市の「マンション条例」も、この都市計画法第13条2項に従って造られた条例だから、条例違反は都市計画法違反ではないか、と申し上げました。

「都市計画に関する知識の普及及び情報の提供」といっても、マンションを建てるのなら、近所の人に説明してくれといっても、市民の誰もがまちの将来像を描ける様な工夫がないと、大変だと思います。アメリカの市役所で都市計画の話を聞いたら、「3/4が広報費用」ということでした。フランクフルトでは街の中心の、ゲーテが通ったと言う教会の前の広場の下が都市計画課のショールームになっていて、街を散策する市民が自然に興味を持てる様な配慮がされていました。

都市問題の専門家にこれを話したところ、「マスタープランを読め。」と叱られました。市条例を守らなければどうなるのかは、全国で住民と開発業者が争ってなかなからちがあかないのだそうです。もしまちなみの将来像がマスタープランに書かれていれば、住民と開発業者のいずれが都市計画を尊重しようとしているか解る、ということでした。これはいかんと「浜松市都市計画マスタープラン」を読み直してみました。するとちゃんと住宅地の将来像、というのが書かれているではありませんか。

困ったことに浜松市では現在、合併による新浜松市のマスタープラン策定に手一杯で、合併前の旧浜松市の都市計画マスタープランはウェブページに載っていません。参考箇所だけ書き写しておきます。

浜松市都市計画マスタープラン
4.分野別の基本方針
<住宅地の土地利用方針>
○都心住宅地

位置 :都心環状線内を対象とします。 土地利用方針 ・鉄道やバスなどの公共交通機関をはじめとして自転車や徒歩により、多種多様な都市サービスを享受できる生活利便性の高い中高層住宅地を形成します。
・単身世帯から新婚夫婦世帯、高齢者世帯など多種多様なライフステージあるいはライフスタイルに対応した住宅を整備します。
○都市型住宅地
位置
:おおむね市街地環状線内及び遠州鉄道上島駅周辺を対象とします。
土地利用方針
・都心への近接性を活かした生活利便性の高い住宅地として、良好な居住環境も兼ね備えた住宅地を形成します。
・遠州鉄道駅周辺では、地区生活のための拠点とあわせた都市型住宅地を整備します。
・中層レベルの住宅を基本とし、多くの人々が都市的な環境やサービスを享受できるようにします。
○一般住宅地
位置

:上記以外の市街化区域のうち、工業地域および工業専用地域を除いた区域を対象とします。
土地利用方針
・様々な暮らし方を演出し、市民に快適な生活環境を提供するために、地域の特性に応じた個性ある低層を基本とした住宅地を形成します。
・市街地の西部および医大周辺など郊外部で面整備が行われた区域は、周辺に良好な自然資源を有したゆとりある良好な住宅地として、現在の住環境の保全・向上を図ります。
・高丘地区、既成市街地東部、東海道本線沿線では、地域内に点在する工場が都市活力を支えている重要な要素であるとの認識から、良好な就業環境を確保し、周辺環境との調和が図られた安全で快適な住宅地を形成します。また、特に既成市街地東部や東海道本線沿線といった区域では、既存木造住宅の不燃化を推進しするとともに、細街路の改善や公園の整備により、住宅地としての防災機能の強化を図ります。
・基盤整備が整っていない区域では、細街路や行き止まり道路などの改善により、更なる生活環境の向上を図ります。
○緑住住宅地

位置
:概ね浜松環状線内の上記以外の区域を対象とします。
土地利用方針
・豊かな緑や水煮囲まれた郊外地の特性を活かし、ゆとりのある生活環境を有する緑に囲まれた居住を提案します。
・整備にあたっては周辺の農業環境、自然環境に充分配慮しながら進めます。
・既存の集落値と新たな住宅はそれぞれ分離することなく、農業環境や自然環境の中で共存した土地利用とすることにより、古くからのコミュニティーを発展させて、新しい地域コミュニティーを育成します。


なかなか素敵な未来の浜松ではありませんか。佐鳴湖西岸は「一般住宅地」なので
低層を基本とした住宅地なんでありますね。
小生が不良高校生だった頃には

「ちんころかんころ学校さぼって佐鳴湖いーけーばー・・・○△□のねーちゃんとーボートに乗りたいなー」

だったのでありますから、あまり高い建物が建つと、覗かれて困るのであります。

ところが市内をゾーンに分けて、それぞれのゾーン毎に定めた「ゾーン別構想」というのがありますが、これでは

8佐鳴湖西岸ゾーン
土地利用の方針
住宅地区

 住居系の市街化区域内を対象とします。
 市民の様々な暮らしに対応した快適な生活空間となるよう地区ごとの特性を活かした快適な生活環境を有する住宅地の形成を目指します。
 基本的には、土地区画整理事業などの面整備により総合的な住宅地形成が図られていることから、新たなコミュニティー育成に配慮していきます。
とあるだけで、面整備から取り残された部分についての言及はありません。今回のマンション騒ぎはまさにその面整備地区と道一本へだてたところで起こっているのです。 問題の地区の都市計画図の沿革を「Forest Park」に置きました。

問題はどこにあるかと言うと、浜松市役所は都市計画法の定めにより「浜松市都市計画マスタープラン」を作ったのではありますが、条例その他の手段を以て、マスタープランに定めるところの浜松市の将来像を防衛しよう、という施策を取って来なかったのであります。どうしてそうなるかと言えば、浜松市の制定した独自の条例に違反していても、それが都市計画法、建築基準法違反になる訳ではない、自主条例など苦労して作るだけムダ、ということの様です。

国民の求めるところを法律とするのが民主国家、という民主主義の原理からすれば、市民の求めるところを定めた市条例に違反することは、すなわち違法である、と考えるのが私にとって自然なのですが、国会の議を経ないで、官僚が密室で作った省令が市条例に優先する、と言うこの国のシステムが「浜松市都市計画マスタープラン」もタダの紙切れにしてしまう様です。