2009.7.15
-風の中の家 1
-風の中の家 2
-生態系に配慮した敷地
-省エネに配慮した敷地
-潮風のオープンキッチン
-床と壁
-夏と冬
-現代茶の間
-風の中の家 3
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-Slide Show
-実施図面(pdf)


太平洋まで車で3分、畑の中に建つ家です。クライアントは海の好きな若い夫婦。ということで、この家のテーマのひとつは「風」になりそうです。日本の伝統的なデザインの根底には、「自然と上手く付合う」と言う考えがあります。「熊野古道」を世界遺産に登録する時、「文明が自然を克服した遺産」「自然を滅ぼさないで残しておいてやった遺産」というそれまでの西洋的な発想に加えて、「複合遺産」と言う新たなカテゴリーを加えたのも、この考え方によるものです。伝統的なハウジングデザインで、「風」をどう取り扱っているかを考えてみました。



設計者の天敵は「物見好き者半可通」なのだそうです。「春秋戦国の頃の都市計画セオリーを、今の日本で住宅の取りに応用するなど、見当違いだ。」と言う意見もあります。しかし世に伝えられた「家相」にも、それなりの知恵が隠されているのではないでしょうか。

家相が設計者に嫌われるのは、「べからず集」みたいなところがあるからですが、その「べからず」の筆頭が「艮・坤の張りは凶」というものではないでしょうか。



逆に「巽・乾の張りは吉」となります。艮を「鬼門」と称して恐れることがありますが、謡曲の「東北」に見る様に、この場合の「鬼」は「死んだ人」と言う程の意味で、恐れることはなく、敬うべきなのは靖国神社の「護国の鬼」とも同じでしょう。「巽・乾の張」では死んだ人も家族に近く暮らせます。

さて「巽・乾の張りは吉」を風のデザインとしてみると、なかなか面白いところがあります。



この敷地だけでなく、浜松の広い地域は太平洋に面した平野部にあります。浜松で最も困る風は台風時の突風では無いでしょうか。

台風の中心が南西にあるとき、太平洋から大量の水蒸気を含んだ強風が東南から吹き荒れます。風による害だけでなく、建物に当って「下から上に」吹き付ける雨によっても、漏水が心配されます。



台風はまあ、台風として、浜松近辺で有名な「遠州空っ風」というのは、冬期の北西風です。これもナミのもんじゃありません。気圧配置によって何日も続くことがあります。午後次第に強くなって、夕方ぱたりと止む、暗くなると又吹き始めて、夜通し吹き荒れる、というパターンです。

風の精で星が瞬きする夜中に、轟々と音を立てる風を感じてみると、既に風なんてものではなく、地表が高速で宇宙空間とこすれているのを実感出来ます。



これに対して海から吹く気持ち良い風の代表は、春から夏に掛けての南西風ではないでしょうか。

こうした風を室内に取入れようとしても、「坤の張り」があると邪魔になります。



逆に「巽・乾」の張った家では、各部屋に気持ち良い風を入れることが出来ます。



遠州地方では「巽・乾」の張った家は、気持ちのよい風に対して「前面投影面積」が大きく、「困った風」に対しては「前面投影面積」が小さい家、ということが出来ます。

家相が風のデザインだけで成り立っている訳ではないかもしれませんが、「巽・乾の張り」は遠州地方における風のデザインとしては優れたものだと言えるでしょう。


殿様か下男か
御殿か獄舎か
殿と獄
禍根