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目次 はじめに 監修の言葉 1.海の東海道と静岡県 2.千石船 3.江戸時代の港湾施設 4.伊豆の湊 5.駿河の湊 6.遠江の湊 調査を終えて
5-1.江の浦 5-2.沼津 5-3.吉原 5-4.清水 5-5.焼津




沼津港外港


沼津港内港


昭和初期には狩野川の右岸に魚市場があった
「沼津いまむかし」 より

5-2. 沼津湊

5-2-1.所在

駿河湾の最奥に位置し、沼津市内を大きく蛇行して、北から南に流れる狩野川河口の 右岸に立地している。 東名高速沼津ICまで約10km、三島新幹線までも10km、さら に新宿〜沼津間の相互乗り入れが行われている、 JR沼津駅には2.5km である。狩 野川左岸を通り伊豆方面に行く国道414号線からは、西に1kmの距離にある。

5-2-2.地形

東には牛臥、徳倉、香貫の連峰がそびえ、西には千本浜、北には愛鷹山越しに霊峰富士を望む。南は駿河湾が開け、我入道海岸との間に狩野川が注ぐ。

狩野川は、かつて、伊豆の暴れ川ともいわれ、上、下流域とも激しい流路の変遷があった。 特に河口域は、洪水氾濫の度毎に変貌し、川筋は本、支流が分からないほど幾条にも分流し輻輳していた。 川は地域住民にとっては、多くの恵をもたらす水上交通の拠点であったが、時には計り知れない災禍をもたらすこともあった。

5-2-3.沿革

沼津湊は江戸時代以前から津(河岸港)の利用が行われていたが、江戸時代に入り、 城下町として繁栄すると急激に港も膨張し、 伊豆をはじめ各地物産の集散地としての地 位を確立した。大正10年に魚市場が開設され、狩野川河口から志多町までの約2キロの河岸港は、 俄かに活況を呈するようになった。

明治21年には東海道線敷設のため、蛇松線が沼津港から現在の沼津駅に開通、その後、昭和49年廃止まで臨港線(沼津港線)として活躍した。 現在は市民の散策路(蛇松緑道)として整備されている。  

昭和の初期、御成橋附近でも水深が15mあり、こゝから下流にかけては舟運に好条 件の適地から、伊豆方面の物資の取引で栄えた。

米穀、雑貨、薪炭、醸造、鮮魚、果実の問屋から金融業に至るまで、諸商が軒を連ね て賑わった。 沼津港の商圏は伊豆のみならず、京浜地方にも有力な販路を有し、名古屋、大阪方面にも拡大、発展していた。 しかし、末だ港湾施設の見るに足るものなく、上流から流れてくる土砂のため、川底が浅くなり、航行がしだいに難しくなってきたので、 1937年(昭和12年)に、旧沼津港(現在の内港)が造られた。 掘抜式の人工港は、水深2〜4mと規模が小さいので、主として近海漁船や小型遠洋漁船、 それに伊豆方面 への観光定期船などが利用してきた。三津、戸田、松崎方面への利用旅客数は、 県下一を誇ってきたが、昭和40年代頃より、こゝにもマイカー普及の影響がみられ、乗降船 客は、年々減少している。  

ここの港も、戦後の工業化がすすむにつれて、大型船舶の寄港できる外港の必要性に迫られ、 1958年(昭和33年)から継続事業として、旧沼津港の西側、千本浜の東 端に築港工事が進められ、 1970年(昭和45年)開港された。開港により貨物取扱 い量が、3倍の30万トン前後に増大したが、 トラックによる陸送の発達により、その 後はあまり延びていない。

漁船の大型化や遠洋漁業化により、沼津港は立地条件が低下してきているが、 沼津魚市場の水揚金額は全国15位の位置にあり、県内では焼津港に次ぐものである。 また周辺部には水産加工業者が立地し、全国生産量の50%以上を締める「あじの干物」の加工が、 恵まれた諸条件に、業界の技術革新への努力が加わって、日本一の地位を築いた。

5-2-4.まちなみの様子

狩野川の下流、旧河岸港であった一帯には、かつての栄光の歴史を語る石倉や、石垣がまだ残っていて、川面に美しい風情を映している。

沼津港は観光、漁業、物流の三つの機能を有するが、港湾区域が狭いため、十分機能していない面もあり、 時代のニーズに遅れをとっている。早朝は漁業関係者で賑わうが、 昼間、夜間は閉散としている。 施設も雑然としていて老朽化が目立ち、港町の雰囲気に欠けている。 しかし、港先端からの南北に隣接する海岸と、松林越に望む富士山の景観 は素晴らしい。

5-2-5.課題

最近、JRと小田急の新宿相互乗り入れにより、東京圏から沼津のグルメや自然を求 めて訪れる人が増えている。 元々西伊豆の玄関港としての、高いポテンシャルを持って いたが、再び海上交通の要地として見直されてきている。

現在、地元でも活性化への施策が検討されているし、市、県、国によるマリンタウンプロジェクト調査も現在行われている。 市民や観光客に親水性の高いアメニティー空間を提供しながら、西伊豆の海上交通機能、県東部の水産流通機能や物流機能を担っていく、 新しい沼津港の再生に課題と期待が寄せられている。


大日本帝國陸地測量部
明治20年測量
二万分一地形圖「沼津」より

国土地理院
平成2年改測、平成3年刊
1:25,000地形図「沼津」「三島」「韮山」「大瀬崎」より