はじめに
新居町の文学碑より
舘山寺の観光
マリンレジャー
水産業と暮らし
美しさの基準
将来イメージ
次の世代に
蒼い思い出
水のロケーション
書を捨てて
浜名湖からの伝言
濱名湖をすぎる
おとうさん、、
浜名湖っていったい
尾奈の老木
観光産業と環境産業
細江の皇帝ペンギン
湖面から見て

委員会資料


このページは
社団法人
静岡県建築士会
浜松支部

が1996年に行った
「浜名湖の立面図」
展覧会 パンフレットの
コピーです。

「浜名湖の立面図」
のデータCDは
社団法人
静岡県建築士会
浜松支部

でお分けしています。
お問い合わせ下さい。
このページの担当

古山恵一郎
〒430-0946
浜松市元城町109-12
tel: 053-453-0693
fax: 053-453-0698
e-mail:
ask@tcp-ip.or.jp
http://www.tcp-ip.or.jp/~ask



バリ島の観光ミヤゲに、現地で流行しているカセットをもらいました。バリは世界的観光地なので、あらゆるところから人が集まって来ます。そうした観光客のウケを狙ってかどうか判らないけど、とにかくありとあらゆるミュージックリソースがごちゃまぜになっています。一曲目こそ、いかにもインドネシアといった感じのダンドゥットですが、2曲目はSOSの「クリといつまでも」そっくり、3曲目はラテン歌謡曲風、はてはJ-POP風のもまであって驚きました。

すでに地球全体が同じ情報の元で動いており、「辺境」は既に無いのです。ほんの少し前までは世界中に「辺境」があり、「物見遊山」の典型的なスタイルの一つに「辺境を尋ねて、土人が裸で踊を踊るのを見る。」というのがありました。多分、今でも世界中にそうしたステージはたくさんあるでしょうが、踊り手はステージが終わると、Tシャツかなんかに着替えて、プロダクションのバスで家に帰り、日本製のカップラーメンでも食べながらテレビを見ていたりするのでしょう。植民地の時代にはハバを聞かせていた、こうした「辺境」型観光地は現在、経済格差から急激に過疎化しつつあるようです。

そうした観光とは対照的にヨーロッパなどに見られる先進国型の観光もあります。「辺境」ではなく、古い歴史を持つ地域には、各々の地域性が作り出す豊かな暮らしがあります。その豊かに暮らす地域の人々の仲間に入れてもらい、束の間の豊かさを実感するため、地域外の人々が訪れるという形の余暇生活です。

実はこうした地域毎の歴史に根差した豊かな環境を維持するためには、それなりの仕掛けが必要なのです。地域の環境に最も密着した産業である農林水産業が、ほとんどの場合そうした仕掛けを動かす主役となっています。「歴史的な環境」と言った場合、近代的な工業以前の農林水産業が各々の地域の環境を作り出している場合が多いからです。EU域内では地域の環境を守る、という働きを農林水産業が担っている国が多く、産業保護のためではなく、環境保護のために莫大な予算がつぎ込まれています。デカップリング政策と呼ばれるこうした仕掛けの為に、ヨーロッパの農村、漁村は豊かな暮らしの場として、各々の地域性を保ち続けており、そうした地域の姿全体が観光資源として活用されるのです。貿易摩擦から「農業に対する保護政策だ。」と攻撃されたときの、フランス農業省の反論は、「フランス文化を守るためには農業が不可欠な背景であり、文化保護の為に行われていることだ。」というものでした。

目を浜名湖に戻してみましょう。現在の浜名湖の姿を守っている最大の貢献者は魚業者です。そして浜名湖を包む緑を守っているのは農林業です。今まで浜名湖の自然環境を守る主役であった水産業・農林業は、水産物・農林産物を生産することだけで経営を成り立たせようとする今までの仕組のなかでは、国際化の波の前に風前の灯火とも言えます。同じ国際価格の元での競争では、都市化の圧力も低く、環境保全に余分な投資の必要がなく、生活・物価水準が日本の数十分の一、という発展途上国、あるいはアメリカ合衆国のように有り余る土地を資本とする大規模機械化農業国に太刀打ちすることは出来ません。浜名湖の恵みに接して暮らす我々が、いつまでも浜名湖という環境の恩恵を受けようとするならば、今まで浜名湖の自然を守り、育ててきた農林水産業を農林産物・水産物の生産者としてだけでなく、環境産業の主役としても尊重しなくてはならないのです。

「江戸前」という言葉があります。今でもお寿司屋さんの看板に良く見かけます。江戸の前浜、多摩川から荒川までは河川によって真水が流れ込み、遠浅で引き潮の際に広大な干潟が出来るという特長が好漁場を作りだしていました。ここで採れる鮮魚を将軍家に献上することと引替に漁業権を得ていたのが佃島を始めとする「御菜八ケ浦」であり、そこで採れる「将軍様御用達と同じ魚」が世に有名な「江戸前」の魚であったわけです。時は移り世は変わり、「多分江戸前の水もきたなくなっただろう。白魚などももう採れないだろし、今ごろ江戸前の海で採れる魚は汚染されていて、食べる気にはならない。」と思いつつも、かって将軍様が食べていた「幻の魚」と言う心意気を込めて寿司屋さんの看板には今でも「江戸前」の字が刻まれているのだと思います。

「河川によって真水が流れ込み、遠浅で引き潮の際に干潟が出来る」という地形は江戸前と同様、浜名湖にもぴったり当てはまります。そしてこの地形こそ日本列島に人間が現われて以来、好んで住み着いた地形です。将軍様に限らず、世界中に例を見ない魚を中心とした食文化を作りだした日本人全てにとって江戸前と浜名湖に共通するこの地形こそ理想的な環境でした。大袈裟に言えば食文化に留まらず、日本文化の全てが浜名湖によって代表される水際環境によって産み出されたと言っても過言ではないでしょう。このような日本人のアイデンティティーにまで係わる貴重な水環境が浜名湖では現在、危機に瀕しています。このままでは浜名湖のもたらす自然の幸も「江戸前」の魚同様、幻のものとなってしまいます。広いと思っていた浜名湖もやがてはドブ水の池と化してしまい、「あんなクサイ水溜まりは埋めてしまえ。」となるのではないでしょうか。そうしたとき、後世の子孫達から日本文化の全てを育んできた水際を永遠に破壊したという烙印を押されるのは現在、地域にあって水際の環境形成に携さわっている私達です。

魚釣、潮干狩り、タキヤ漁、みかん狩り、と言う具合に、浜名湖には今で言うグリーンツーリズムが昔から盛んです。しかしヨーロッパのグリーンツーリズムは来訪者が現場に落とす収入だけでなく、むしろそうした収入よりも、農林水産業が環境産業であることを、交流を通して都市の住民に実感してもらうことが重要視されている意味を、今一度考えてみたいと思います。「魚を食べることにかけては世界一」という日本人の「魚を食べる」分かの故郷の一つが他ならぬ浜名湖なのです。浜名湖の環境を守ることは日本文化を守ることなのです。

pagetop


デ−タの利用について
  1. 「浜名湖の立面図」の著作権は(社)静岡県建築士会浜松支部にあります。
  2. コピー、リンク、引用を御希望の場合、御相談ください。
  3. 引用に関する責任は負いません。
  4. 文脈の曲解につながる形での部分引用はお控えください。