浜名湖の和船
浜名湖で船を使い始めたのは入出港だと伝えられています。入出と言う集落自体がそもそも知波田の人達が漁業のために小屋を掛たのが始まりなのだそうです。湖北の入出、気賀といったところでは漁業の方法が、かっては湖底のかけ上がりと呼ばれる水深の変わり目を行き来しながら魚を追って捕るというものでした。そのためには軽快な舟が必要となります。この地域で伝統的に使われたものは長さ6m強、幅1.5m弱の、多少の波に対しても操船が軽快な様、ヘサキの上がりが大きなものでした。
これに対して新居、舞阪では例えば角建漁には大量の網が必要になります。海苔、牡蛎についても同様で、運搬重視のたっぷりとした舟が使われるようになりました。その他、タキヤ漁では夜、風の無いところに竿をさして出かけるわけですから角張った、田舟に似た舟が使われました。いずれにしても浜名湖の中で使われるかぎりは、波に対する備えはそれほど厳重にする必要はありませんでした。これが外洋に出る必要のある舟では長さが10m程度、耐波性を確保するために舳先の大きく上がった喫水の深い舟が使われました。このように浜名湖と言っても地域毎にそれぞれ異なった舟を使う伝統を持っていました。
こうした和船は全て現代の船と違い、竜骨を持っていません。そのかわり、外板に耐水性の高い木の板を何枚か組み合わせることで強度を出すようになっています。これには杉の最低150年から200年程度のものが使われます。かっては自然にこのような材料が豊富だったものと思われますが、現在では殆ど入手が不可能であり、あったとしても高価であることが和船造りを難しくしています。又現在の造林材を見ると、木目が広く、かって使われていたような緻密なものがありません。これでは現在の木が150年ないし200年という樹齢に達しても、はたして造船材として適当なものになるか疑問です。浜名湖では現在、入出に一軒だけ木造の和船を作っている造船所があります。そのほか新居、舞阪にも和船を作れるかたはまだいらっしゃるようですが、和船の建造技法は今や死に絶えようとしていると言ってよいでしょう。
長い伝統を持つ和船には様々な工夫があり、最近になってこうした和船を見直そうという動きもあります。例えばサッパと呼ばれる小舟には船底に前後方向にかすかなカーブが付けられています。これは櫓を漕いで舟を進める際に、櫓から直接得られる推進力だけでなく、櫓を漕ぐことで生じるローリングの力も推進力として利用しようという工夫です。こうした様々な工夫があり、又それがそれぞれの地域で独自に発達してきた和船は、次第に現代の舟にとって変わられつつあるわけです。ヤマハ発動機、スズキ自動車、あるいはヤンマー等のメーカーとしては、どんな水面でも使える船を目指しているわけですが、半面、これから先もこうした和船の伝統を大切にして行かなくてはと考えております。
浜名湖の水質
浜名湖の水質が悪くなっているということが最近言われますが、直接浜名湖に接している私共でも、このことは痛切に感じております。5年前には夏には無理でも、2月頃のヨットレースではまだ艇からのぞき込めば湖底を見ることが出来ました。これが現在ではかなり難しくなってきております。私達がそうであるのと同様、漁業にとっても水質が重大な問題になっています。
水質悪化の原因としては工場排水、家庭からの雑排水等が原因として挙げられますが、それと劣らず農業排水も水質汚染の原因となっているものだと思います。浜名湖の湖岸では毎年数千トンの農薬が使われているということで、これが最終的には浜名湖に流れ込んできているわけです。あるいは水質にとって工場排水、家庭雑排水よりも危険な物質を含んでいることも考えられます。よく「浜名湖は汚くなってアオコが出るようになった。」と言われますが、これも瀬戸橋から南のことでありまして、猪鼻湖では湖底に生き物が住めない。赤潮が出ることすらまれ。と言う状態になっております。ゴルフ場も同じです。細江湖の漁獲高が減っているのは、上流のゴルフ場の農薬との関係も否定できないと思います。猪鼻湖、細江湖にはそれぞれ川がありますけれども、松見ヶ浦にはそうした流入河川がありません。溜まり水に近いわけで、微量の生活排水でも水質に重大な影響が出ることが考えられるわけです。
浜名湖は陸に囲まれた水面ですので、ほかのマリンレジャー基地に較べると、圧倒的に安全なことを申し上げましたが、それ以外にも他にはない様々な特色をもっています。一つは水質の保全が難しいということです。流れが少ないので、一旦浜名湖に流れ込んだ汚れはなかなかきれいになりません。周辺も次第に都市化が進行していますし、観光による影響も増大しています。産業の発達ももちろん影響しているはずです。たとえばレストランにしても汚水については処理しても、ビールの残りはそのまま流してしまう場合だってあるかもしれない。お客様のなかには飲んだビールを御自分で処理なさって、直接放流される方もいらっしゃるかもしれない。水質の影響を一番受けやすいのは漁業です。残念ながら浜名湖の水産業の水揚げ高は毎年低下してきていることは確かなようです。しかし、私は水揚げは減っても漁業は存続できると考えておりますし、レジャーとも共存できると考えております。
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