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静岡県建築士会
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「浜名湖の立面図」
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かき養殖組合の理事の倉田定於さんから、水産業と浜名湖の水質についてうかがいました。倉田さんは庄内湾を始めとする浜名湖の水質に関し、現場の実感を込めて、深い造詣をお持ちです。


水産業の変化

浜名湖の湖内の漁業を10年前と較べると、全体としては漁獲高が減ってきていると思います。アサリは湖岸全域で捕れます。舘山寺、女ヶ浦などの砂地の海岸でも捕れます。けれども湖北では商売にはならないので漁をしている人はあまりいません。都築あたりの海岸にもいることはいますが、それよりも毎年夏に死ぬ貝がおおいので、貝殻が積もっているのに気が付かれると思います。浜名湖全域で見ても捕れる場所が少なく、数も減っています。カキは夏の間は湖南においておきますが、冬には北に動かします。最近はイカダも使うようになっています。クロダイとかセイゴがイカダに付くので釣りに行ったことのある人もいると思います。

ウナギは水の汚れに敏感な魚ですが、このところ細江湖では捕れなくなっています。ノリは湖南にしかありませんが、このところ激減しています。角建は湖南全域にあります。ミオ筋の駆け上がりに網を張ります。湖北の深いところでは流し網でクロダイ、マダカを捕っています。最近になってクルマエビの中間育成が始められています。浜名湖では中間育成場が現在5ヶ所作られて、他の魚のエサにならないで育つことのできる大きさまで育成して、放流しています。これでクルマエビの漁獲高が上がってきていますので、次はクロダイの中間育成が考えられています。

暮らしと景観

私が子供の頃までは浜名湖全域を見ても岸壁になっているところは本当に限られたところしかありませんでした。佐鳴湖にモエビを捕る人がいて、舞阪から雄踏を通って佐鳴湖の近くまで舟で行ったものですが、このあたりも一面ヨシが繁る自然の水際が続いていました。現在でも浜名湖の景観は、水質にくらべれば人工護岸も少なく、まだまだ残されていると言えるでしょう。奥浜名湖には昔ながらの景色が結構あります。これからも残された渚を大切にして行くことが大事だと思います。

湖南の佐鳴湖に近いところとか、家の沢山立つようになったところでは、景観もかなり変わってきていますが、浜名湖全体ではまだまだ昔ながらの自然の景観が残されていると思います。しかしそうした景観にもかかわらず、水質から見ると、浜名湖はこの10年ほどで大分変わった。それも悪いほうに変わったという気がします。浜名湖の周りで暮らす人が増えれば増えるほど、生活が便利になれば便利になるほど浜名湖の水は汚れてきています。

漁業から見た浜名湖の生態系

かっての浜名湖には至る所に「もく」と呼ばれる海藻が生えていました。村櫛周辺から庄内湾にかけては特に多く、そうした海藻の生えている「も場」と呼ばれる場所が広く分布していました。夏になると「もく」で舟が動けないという様子でした。

「も場」は水産業にとっては魚類の産卵場所、稚魚の生育場所となりますが、「もく」は同時に農業にとっても重要な肥料として利用されていました。生活の場から流される水、農業から流される水も、昔は現在に較べてずいぶん少なかったと思います。雨水にしても現在のように直接浜名湖に排水されるのではなく、地面にしみこんで農地を間接的に潤す部分がありました。浜名湖に流れ込む際にも、流れる途中である程度は浄化されていたわけです。そして最終的に浜名湖に流れ込んだ「汚れ」あるいは「栄養分」は、「もく」に吸収されて浄化されます。そしてこの「もく」が農業肥料として回収され、畑に戻されることで、陸上と湖水をつなぐリサイクル系が成り立っていました。

ところが昭和30年代になって合成洗剤が出回ると、4-5年の間に「もく」が激減して、「アオサ」に取って代わられてしまいました。同時に農業でも化学肥料の使用が増え、昔のような「もく」を媒体とした、陸上と湖水をつなぐリサイクル系が途切れてしまいました。今では陸上から流れ込む「栄養分」を、回収して、農業に還元するということがないわけです。流れ込んだ「栄養分」は「汚れ」として回収するしかない。と同時に人は増え、生活は便利になって、流れ込む「汚れ」は急激に増え続けています。「汚れ」として流れ込むスピードが、「栄養分」として回収されるスピードをはるかに上回っているのです。

暮らしと生態系

下水道の処理水を浜名湖に放流することには、魚協でも反対してきました。それまで野放しだった排水を、下水道として整備し、ある程度浄化してから放流するという訳ですが、一旦流入した「汚れ」は、昔のように陸上に還元されることはないのです。

特に庄内湾は殆ど閉鎖水系となっています。浜名湖の本湖との潮流がない、と言ってもよい訳ですが、昔は陸上から流れ込む栄養分が、「もく」によって還元されることで、閉鎖水系として水質が保たれる仕組みが出来上がっていました。それが中性洗剤と化学肥料で、そうしたリサイクルシステムが破壊されました。そしてそこへ、陸上と湖水をつなぐリサイクル系が、途切れたままで固定化するようなかたちで、伊左地に処理場が作られるのは問題があるのではないか、ということを言ったわけです。

伊左地川の下流をご覧になると分かりますが、殆ど水が流れていません。そしてそこへヘドロが溜まります。夏にはプランクトンが異常発生します。魚が浮く。アサリが死ぬ。ということになるわけです。私は現在でもまだ、庄内湾に関しては、この閉鎖水系であることをどうにかすれば、生き返るものだと考えております。例えば今切れ口で行なわれている、導潮工事の考え方を拡大して、庄内湾にも外海の水が入るようにするとか、三方原用水を使って天竜の水を庄内湾にも落とすとかすれば、状況は変わるものだと思います。そうしない限りは庄内湾は、現在すでに佐鳴湖とほぼ同じところまできています。水の汚れといことからすれば猪鼻湖、細江湖も、同じようなことになりつつあるようです。

自然との調和というのは、どうしても便利な生活と対立します。整備すれば整備するほど、汚れがひどくなる、というところがあります。流域の家庭雑排水にしても、漁業者としては止められるなら止めてくれと言いたい訳です。しかし自分の家の暮らしを考えてもなかなか難しい。もし止められないとするなら、少しでもきれいにすることを考えたいと思います。

漁業というのは水質の上から考えても、湖水から養分を取り出す、ということで大きなリサイクルシステムの一部をつとめてきたわけです。魚がいてもエサを食べなければ栄養分は湖水に残ります。人間も同じで、漁業がなければ流入してくる養分が増えても、それが全部湖水に残ってしまうわけです。「もく」も引き上げて畑に入れなければ、そのまま湖底に堆積します。浜名湖の漁業が落ち込んで、漁獲高が少なくなれば、それだけ水質浄化のサイクルが詰まってくるわけです。最初のうちは分からなくても、あるところまで行くと急激に汚れが進みます。

共にこれからの浜名湖を考える

湖北部の家庭排水をどうするかが今、浜名湖では一番問題だと思います。湖北では南に較べて水の動きが、もともと少ないのですが、現在、夏になると赤潮が発生して、窒息死した魚が打ち寄せられる、ということになっています。細江湖でもし尿処理場が作られましたが、ここはもともと猪鼻湖と同じように、水の循環が少ないところです。処理場の近くでは、夏は特に危ない状況になっています。

湖北では湖南のように広域下水道につなぐという計画がありません。いずれは浜名湖に排出するという計画でいます。そうした場合に、大掛かりなものを作るのでなく、なるべく小規模施設の方が良いのではないかと思っています。大きくなればなるほど管理が難しくなるわけですね。消毒用の薬品というのも化学物質ですから、使い方を誤ると大変なことになるわけです。小さな施設であればあるほど、必要最小限の化学物質で排出基準を達成できるわけです。部落単位とか、そういう小さな施設の方が良いと思います。

それからもう一つお願いしたいのは、漁業者としては、浜名湖に流入する生活排水を作りだす人達、浜名湖の周辺で生活をしている人達との、話し合いの場を持ちたいということです。浜名湖の水質は漁業者にとっては今日明日の問題ですが、浜名湖の周辺で生活をして、浜名湖の水を前提に暮らしている人にとっても、長い目で見ると浜名湖の水質というのは、いずれ死活問題になってくる訳です。これは漁業者だけではどうしても解決できない問題で、いずれ一緒になって考えなくてはならない時期が、嫌でも来るわけですから、なるべく早い時期から一緒に考えるというのが望ましいと思います。

菖蒲もく 静岡県水産誌 より

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