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社団法人 静岡県建築士会会員

古山惠一郎
〒430 浜松市元城町109-12
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No.9

□レストランが無い
□世界中同じものを食べている
□持続可能な成長
□コンビニめし


図1
ブリストルの商業集積。丸印は郊外大形店
S=1/100,000 (地域交通計画報告書より)。



図2
ブロードミード・ショッピングセンター
古い街区のファサードを保存し道路を歩行者専用にしている。



図3
裏側は再開発ビル。手前は保存建物。



図4
http://www.tesco.com/WhatsinStore/
goGourmet.htm



図5
サットン、セントニコラス・ショッピングモール。



図6
サットンのショッピングセンターは高齢者の憩いの場。



図7
ピムリコガーデンの青空市場。


英国の中心商店街

南西部の港湾都市ブリストルは市内人口40万人、道路30分圏人口170万人。 大正以降急成長した浜松に対し、冒険小説の「宝島」の舞台にもなった通り、 奴隷貿易・煙草・綿花・ワインで17世紀からにぎわった地方都市である。 ところがここで月曜日の午後6時頃、中心商店街を探してみても、 開いているレストランが無いのだね。 旧市街地の中心部を車でぐるり、シネコンやらなにやらが並ぶ港の再開発地域を廻ってもそれらしい店は無い。 若者がたむろしているパブはあるのだが、皆ポテトチップスでエールを飲んでいるばかり。 しばらく走ってあきらめ、昨日見た中心部のショッピングセンターに車を入れたが、 ここもセルフサービスの食堂街はすでに閉っている。 周囲をぐるぐる廻ってやっとのことで開いていたのはピザ屋一軒のみであった。

帰りの特急列車に乗り合わせたロンドン大学の先生に

「ロンドンの英国料理は?」

と聞くと、

「いや、英国料理と言わないで、西欧料理と言ってくれ、 フランス料理もイタリア料理もロンドンには美味しい店がたくさん有る。」

ということで、

「食い物が旨い、まずいと言っておったのでは大英帝国は出来なかった。」

というのだろうが、それにしてもちょっと寂しかった。食堂だけで無く、 物販店も目に着くのは怪し気な土産物屋の類いばかりで、地元の人は何処で買い物をするのだろう。

市街地中心部に床面積10万平方米というショッピングセンター
(図1中央…http://www.bristolbroadmead.co.uk/)
が整備されており、ここには結構人が集まっていた。 図2の様な古い街区のファサードを保存して、昔ながらの道路を歩行者専用にしている。 自家用車が街に溢れる前のブリストルを再現、という趣向だろう。 とはいえ、歩行者専用道路は東西500m南北400m程のショッピングセンターの中央を十字に横切る2本のみで、 周囲をバスと駐車場に入ろうという乗用車が押し合いへし合いしている。 ここ以外は沿道商店街といったところだが、たいしたことは無さそうだ。 どうも地図にも有る郊外大形店というのが怪しいが、気ぜわしい旅で実地に見ることは出来なかった。 しかし同じ店がショッピングセンターにも入っていて、 大体の想像はつく。いずれもTESCOとかSAFEWAYといった世界規模のスーパーチェーンだ。 TESCOは最近タイ国に進出し、「このままではタイの小売業は全滅してしまう。」と騒ぎになったのは記憶に新しい。 並んでいるものをインターネットで見ると、

ロブスタークレープ100g240円
チリ産カベルネ・ソービニョン 800円

と、遠鉄ストア・松菱マートと似たようなものだ(図4)。 かっては中心市街地に出かけないと手に入らなかったものが、 今やどこにでもあり、しかもそれが世界中同じ、という現象が中心商店街を取り巻く状況であることが感じられる。 商業開発と同時にブリストルでも都心居住整備が行われているが、 なにせ建物が数百年前のものなので、殆どが2・3階てである。 今まで倉庫などに使われていた階上床のうち、流通合理化で不要になった部分を住居に転用しようというものだ。 我が国より早く、ビクトリア時代がバブル期であったとすれば、 幕末から明治初期にはすでに低成長経済・高齢社会に突入していた英国では 「持続可能な成長」が21世紀にもテーマとなっている。 都心居住・脱自家用車のまちづくりもそうした未来に向けての布石の一つと言って良いだろう。

ロンドン近郊の街サットンでも古い商店街を歩行者専用道路として整備し、 裏側に巨大な立体駐車場が作られていた。 SAFEWAYなどが入った新しいショッピングセンターを昼間覗くと、 これが結構、高齢者の憩いの場となっている。 夕方近く、通勤帰りの買い物客で混雑する間までは、 時間がゆっくりと流れてカフェテラスのテーブルはいつまで待っても空かない。 さらに都心に入ると、英国近代都市計画史の名作といわれるピムリコガーデン横には、 関西や東京でも下町で見るような市場が店開きしていた。都心居住の高齢者には便利だろう。 若者はどうかと言えば、日本と同様、コンビニめしが主流となっているようで、 都心の駅構内のスーパー、駅周辺の、 古めかしい言い方で言えばコーナーショップと称するコンビニは退勤時間には結構混んでいた。

これ以外にはレストランといってもピカデリー周辺に有るような、 一通り食べて御一人様5000円より、といった半ば観光客相手の高級料亭位しか無いのだ。 安くて旨い、を探そうと思えば、 そうした料亭の中でネパール、ヴェトナムといったニューカマー系のエスニックが狙い目であろうか。 もっとも「レストラン」という発想が英国風では無い、と考えれば別の道も開けてくる。 スコットランドヤードの向いに有る議員宿舎みたいなホテルで教わったパブは安くて旨かった。 先ずはエールで咽を潤して、サラダ、チーズの並んだネタケースの隣、 赤外線ヒータに照らし出されているのは、 ステンレスのバットに入った「煮込み」だ。

ヴィレジャーズ・パイというのが牛の煮込み
シェパーズ・パイというのが羊の煮込み
キドニー・プディングというのは腎臓の卵とじ
なのだが、これもまあ煮込だと考えて良い。

18世紀末から19世紀に、ロンドンが急膨張したころの物流システムを思い起こさせるような、 何が入っているか分かったものでは無い食べ物なのだが、これが旨い。 こんな旨いものを飲屋で人に知られず食っている英国人は、 旨いものを食うのは恥だと考えているのではあるまいか。 中心商店街が何だか食い物の話になってしまったが、アサリを自分で拾って食べ、 鰹の塩辛を自分で作る、というのが結構幸せなことが中心商店街を見ても解る。

英国の写真を差し上げます。cd入り、「都市白書」「交通白書」概要版粗訳のオマケ付き。実費ビール券1枚。 御連絡ください。

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