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No.18

□銀行協会の「不思議なもの」
□ドイツ製ボイラーへの階段
□満州国の都市計画
□あの時代の匂い
社団法人 静岡県建築士会会員

古山惠一郎
〒430 浜松市元城町109-12
電話 053-453-0693, fax 053-453-0698
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上の図は鴨江にある銀行協会の、地下ボイラー室へ下りる階段を外から見たものです。

子供の頃から見知っている銀行協会の建物ですが、この建物にはあちこちに「不思議なもの」があります。たとえば手形交換室の掛時計が一昔前の目覚し時計のような、金属板がぱたぱたと落ちる「デジタル時計」になっています。これはまあ、分るような気がします。何月何時に手形の期限が来るとして、普通の掛時計だと右斜から見るのと左斜から見るのとでは、分針が12の真中に来るのが数秒違うではないかと、ならばいっそのこと、板がぱたりと落ちたらそれが正時という、融通が効かないともいえるデジタル時計が手形交換所には適しているのではないかと思います。

これと並んで、銀行協会の「不思議なもの」の筆頭が地下のボイラー室ではないでしょうか。中にはドイツ製の石炭ボイラーが据えられていて、暖房用に使われたものだそうです。ここへ入るにはごらんの通り有効幅が60センチ程と、現在の建築基準法には適合しない屋外階段がちょうど根切りの山止めのように建物の角を巻いています。階段を下りると中央にドアがあり、ドアの両側にかっては木製サッシが入っていたのではないかと思われる窓が付いています。

ボイラー室という機能や、仕上げ等にはどこにも不思議なところはないのですが、どうもこのボイラー室には特別な雰囲気がただよっています。最初にこの雰囲気に気付いた教育委員会の内藤さんは、古びたドイツ風の飾り文字が刻み込まれたボイラーに謎が隠されているのでは、とお考えのようですが、私が見るとボイラーだけではなくボイラー室全体、あるいはそこへ下りる階段からも謎めいた雰囲気が漂ってきます。

結局行き着いたのはこの階段からは昭和10年という時代の、表側ではない部分の匂いがする、ということでした。

1929年の世界大恐慌に始まる暗い波瀾の時代にあって、明るさと信用を象徴する建物としてデザインされた銀行協会なのですが、どうもそれだけでは物足りない、あの時代の裏側の暗い部分の残り香がどこかに残されてはいないか、と探すと、最後にはこの階段に辿り着いてしまうのではないでしょうか。ボイラーに刻み込まれたドイツ風の飾り文字を見ると、ナチスが作ったユダヤ人「処理施設」でも同じようにドイツ語で何か書かれたボイラーが使われていたかもしれない、とあらぬ想像をしてしまいます。 関東大震災の震災復興とともに、それまで特殊な建物に限られていた近代建築が同潤会アパートに見られるように街並を形作り始めたのがこの時代でしたが、この階段回りも近代的なシンプルなデザインで作られています。