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目次 はじめに 監修の言葉 1.海の東海道と静岡県 2.千石船 3.江戸時代の港湾施設 4.伊豆の湊 5.駿河の湊 6.遠江の湊 調査を終えて
4-1.網代 4-2.川奈 4-3.稲取 4-4.下田 4-5.南伊豆 4-6.松崎 4-7.土肥 4-8.戸田 4-5-1.はじめに 4-5-2.南伊豆町の概要 4-5-3.手石 4-5-4.小稲 4-5-5.長津呂 4-5-6.妻良・小浦


石廊崎奥から望む石廊崎港口。


南伊豆の民家(1972)


南伊豆の民家(1972)


南伊豆の民家石垣(1972)


南伊豆の民家石垣(1972)

4-5-2.南伊豆町の概要

2-1 所在

伊豆半島の最南端に位置し、天城山系を背にして、南から西にかけて太平洋に面している。 北東は下田市、北西は松崎町に接し、東西11.5km、南北9.7km、総面積110.58km2。 県下一の長くて変化に富んだ海岸線を有し、 海岸線のほとんどが、環境庁の国立公園第1種特別地域に指定されている。 また、文化庁の名勝伊豆西南海岸にも指定され、より強力な保存と管理が行われている。

2-2 沿革

江戸時代には幕府の直轄地に指定され、リアス式海岸と天然の良港を持つ南伊豆は、 特に、東西の海上交通路の要所に位置していることもあって、風待港として知られていた。 東海道線開通以後も日本の物流、情報、文化の結節点の一つであり、 海上交通拠点としての機能は残されていた。町村制がしかれた明治22年、 南崎村、竹麻村、南中村、南上村、三坂村、三浜村の南賀6ヶ村が生まれた。 それから60余年を経た昭和30年7月、これらの6ヶ村が合併して、 現在の南伊豆町が誕生した。現在、人口は約11,000人で毎年減少傾向にある。

2-3 気候・風土

伊豆半島沖を流れる黒潮の影響で、毎年平均気温が17℃、冬でも零下に下ることがなく、 県下で一番暖かな土地となっている。降水量も年間1,900mm前後で亜熱帯植物が繁茂する。 天然の良港を生かした海岸地区、温泉を中心とした下賀茂・加納地区、 そして山村地区と、それぞれ三地区が特色を持っている。

温暖な気候に恵まれている反面、厳しい自然の洗礼を何度も受けてきた。 昭和49年の伊豆半島沖地震や昭和50年、51年の集中豪雨により大きな被害を出した。 一方、風待港として栄えた海岸線の集落には、伝統芸能や歴史財が伝承、保存されている。

2-4 産業

古くより、東西の海上交通の要所として、漁業や農業を中心に栄えてきた。 かつては伊豆半島最南端という地理的制約があったが、 伊豆急行の開通やマーガレットライン等の道路網の整備により、 南伊豆の恵まれた自然がクローズアップされた。 伊豆急開通による東伊豆地域の外部資本中心とする観光開発期にも、 南伊豆町は、国立公園として守られた自然環境の中で、 良くその伝統的な自然と生活との関係を維持し、「自然の博物館」として残されてきた。

国立公園第1種地域、国の名勝という指定は同時に、 民宿などの観光開発においても様々な規制の枠に阻まれて、 他地域の様な大規模開発による競争力を利用できないで来る原因ともなった。 しかし、最近は、観光客も昭和62年の225万人をピークに減少傾向にあり、 単に近代的な施設だけでは人を呼べなくなってきている。 これと同時にレジャーの内容も、 従来の物見遊山的な観光から研修遊学型の余暇活動に移ってきている。 こうした需要に応えるためには、海岸の景勝美に頼るだけでなく、 南伊豆町がこれまで伝えてきた、自然と生活との伝統的な美しい関係それ自体が、 大都市部では体験することの出来ない貴重なものとして来訪者に提供される資産だと考えられる。

余暇産業は町の他の産業(商業、漁業、農業)とも密接に結びついていた基幹産業であるが、 こうした新しい形での余暇生活への需要に対しては一層緊密な協力関係が求められる。 新しい振興策により、 地域の暮らしの姿そのものが南伊豆町の「もてなし」の姿として提供されれば、 大都市部からの来訪者に歓迎されることとなろう。

2-5 まちづくりの施策

昭和40年代以降の自家用車の増加、レジャーの大型化の最初の波を、 南伊豆は「民宿」によって歓迎した。しかし、 南伊豆がそれまでに貯えてきた地域独自の文化、 伝統に基づく「もてなし」であった民宿は、宿泊業近代化の指導のもと、 多額の設備投資を経て近代的宿泊業としての機能を整えた。 これは同時に地域の生活環境、住環境の近代化にも大きく貢献した。 しかし、こうした近代化のために、 限られた敷地と厳しい自然に囲まれて快適に暮らすという、 地域独自の生活の工夫と、それが結晶して出来た伝統的なまちなみも、 近代的観光地の中に伍して、その豪華さのみを競うという状況に直面することともなった。

南伊豆町は現在「光と水と緑に輝く南伊豆町・伊豆南端にきらめく海遊の町」をスローガンに新たな挑戦を行っている。 環境庁の「スターウォッチング・星空の町コンテスト」に入選したのをきっかけに 「日本一の星空の町」を目指し、夢をふくらませている。しかし、 この壮大な夢とは裏腹に、6ヶ村の合併による地域バランスが、 小さな町の財政をさらに細分化し、まとまった事業ができにくくなっている。

また最近、大都市圏から南伊豆町の環境の素晴らしさに魅了されて、 移住してくる人が増えている。当初は過疎化が進む中で歓迎されたが、 年金生活者が多く、地域の生活基幹施設整備の沿革に対する理解が不足するような場合、 大都市におけると同様の利便性を安易に求める結果となって、 町の財政負担を増やし、さらに地域社会から孤立する等の状況もあり、町の新たな問題となっている。

21世紀に向けたまちづくりの基本理念

1. ほんものの自然と調和したまちづくり
2. ふれあいとゆとりのあるまちづくり
3. 誇りと愛着のもてるまちづくり