掛塚の道のしかけ
掛塚のまちなみについて、その景観構成要素で特筆すべきものに街路構造から来る景観ノード(結節点)の存在を挙げておきたい。掛塚のまちなみを構成する街路構造は縦横にきちんとした計画的街路からなり、近郊農村部とは際だった違いをみせている。これはかって掛塚が湊として栄えたおり、高度な都市的要素を持つ地域だったことを良く表しているが、現在の近代的都市計画から生まれる街路の景観に較べて、はるかに豊かな要素を含んでいる。
それは地域のあちこちに見いだされるアイストップを持つ街路である。現在、一般に行なわれる街路計画に見られる、直線からなる街路と十字路が、掛塚では曲がった道や、丁字路であったり、曲がりを伴う十字路であることが多い。いずれも自動車交通を主に考えた場合、道路の対流を惹起しかねないものとしてなるべく排除される。しかし、このような街路は、歩行者交通を主に考えた場合、そこに人間の「たまり」「かいわい」を作り出す仕掛けとして、注目されている。掛塚のまちなみにはこのような「歩いて楽しくなる」ための仕掛けが随所に見られる。掛塚のまちなみを豊かにしているこのような場所には、それぞれアイストップとなるような建物が配置されていたと考えられることも、注目に値する。
それらは多くの場合、計画的に作り出されたものではなく、
結果的なものではあるが、周辺の景観を構成する建物群が、
こうした街路の環境を長い間に巧みに取り込んで、豊かな景観を作り出している。
現代の計画的な町づくりが容易に達成できないこのような質の高い街路景観を、
掛塚の先人が自らのまちづくりの努力の中から産み出してきた過程も尊重すべきである。
これらの景観ノードは次のようにまとめることができる。
- 街路のカーブによるもの
本町通りを歩くと、幾度か道がカーブしている。
カーブの大きさによって見通しが変わり、歩くにつれて変わる景観が楽しめる。
- 街路の突き当たりによるもの
郵便局の様に街路の突き当たりに当たる場所には特別な配慮が払われて、
交差点の性格を強めるよう配慮された。西光寺の様に計画された配置と考えられるものもある。
- 土手によるもの
小路、路地が天竜川に向かうときには土手の下が必ずアイストップになる。
この場所は地域と天竜川の結び付きを想い起こさせ、水防、水への信仰などの為の祠が祭られた。
- ランドマークによるもの
木橋のたもとにあたる松は、こうした街路構造の中でも特に掛塚全体にかかわるものとして、
遠くから見通しのきく大木となるよう植えられた。
掛塚の中心部に見られるこうした街路の仕掛けと、演出される事項を
図3-5 に示した。
建物が建てられるときにもこうした街路構造に配慮することで、
単独の建物だけでは作り出せない効果を実現していることにも留意したい。
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