title

目次 はじめに 監修の言葉 1.海の東海道と静岡県 2.千石船 3.江戸時代の港湾施設 4.伊豆の湊 5.駿河の湊 6.遠江の湊 調査を終えて
6-1.川崎 6-2.相良 6-3.御前崎 6-4.福田 6-5.掛塚 6-6.今切 1.はじめに 2.掛塚湊の概要 3.まちなみの様子 4.望ましい掛塚湊のまちなみ 5.これからの課題 6.資料




6-5-5.これからの課題

5-1.長期にわたる課題
道路整備

掛塚のまちなみの将来が4章にみたような姿に近づくためには解決しなくてはならない様々な課題がある。先ず竜洋町全体の中での都市計画的な位置づけと取り扱いについて考えてみたい。行政側からも

  • 町全体を考えたとき、掛塚の町並みは都市計画事業のやりにくいところである。どうしても後回しになってしまう。農地を転用して新市街地を作る、というほうが簡単ではある。
  • 掛塚の町並みについては、地元にしてみれば「再開発」という考え方もあると思うが、道巾を拡げるだけでよいのかどうか考えて行きたい。
  • 掛塚のようなところでは、細い街路が多いが巾を拡げる、交差点の角を斜に切る。というのもなかなかできないでいる。しかし成り行きに任せておくと次第にブライト化してしまうので対策を考える必要がある。
という状況であることが報告された。

近代的都市一般においてはマイナス要因とみられがちなこのような状況は、掛塚においては歴史財の活用を基調にしたまちづくりを考えるならば、プラスに転化することが可能である。竜洋町全体の中で掛塚を位置づける際に、道路計画からは旧市街地の外周に必要な道路を配置することを提案したい。左図に示す様な交通イメージが考えられないであろうか。

掛塚では、「「道路を拡げろ」と言う声は少なく、歩車道を分離する必要はない。」という考えかたからうかがわれる様に、自動車のためにでなく、歩行者のために道路を使うというオランダにおけるボンエルフと同じ考え方が地域のマナーとして定着している。現代の都市では忘れられがちな地域の生活資産として大切にしたい。そのためには必要となる生活道路も本町通りの拡幅等によるのでなく、掛塚湊の旧市街地の外周に配置することが考えられる。地域住民の利用だけでなく、外部から掛塚を訪れる車両も一旦この外周道路に落し込む。沿線には公共駐車場、トイレ、観光案内所等の施設が配置されるであろう。

外周道路の存在を前提にすれば、本町通りは自動車でなく、歩行者を主体に考えた整備が可能となる。国道150号線の本町通り交差点も外部からの車両が入りにくくすることが考えられる。都市部で行なわれている、いわゆる「歩行者天国」なるものよりもより高度な自動車と歩行者の共存が、掛塚では地域のマナーとなっており、更に豊かなものにしてゆくことができるであろう。




誰にでも解かるために・・・江戸の魚屋
「江戸の町」、内藤 晶/穗積和夫、草思社、より



古い建物を大切に
「ちいさいおうち」、バージニア・バートン、岩波書店、より
まちなみの価値の共有

本年度の「考える会」では掛塚のまちなみの持つ価値の「再発見」という発言が多くみられた。

  • 竜洋に住んで20年になるが、地域に何があるか、知らないところが多かった。

  • 歴史財について、評価はあっても地元にその意識がない。誰もが知るというのが第一歩ではないか。移築というのも難しく、現地で保全するというのが考えられることだと思う。旧家の建物だけでなく、普通の家、シトミのついた民家なども所有者の意向を確かめたうえで「これは」と思われるものについては残すことを考えてはどうか。

  • 視線を変えてみると、今まで見えてこなかった地域の特性が見えてくるのではないか。掛塚でも道路の溝が中心線にあるとか、槙の囲いが多いとか、特色がいろいろ有ると思う。

  • 倉の多さ、まちの静けさなど、言われてみないと気付かないことも多かった。

  • 小路がこんなに沢山あって、美しかったのか

  • 常日頃見ていても気がつかないが、生活感のあるまちなみだと再確認した。

  • 掛塚のイメージが生活の多様化、産業の多様化で拡散してしまっている。

まちなみは日常生活の背景となっており、そこに生まれ、暮らし、住む人々にとってはありふれたものになっている。そのため、改めて見直すと二つとない貴重なものでも、その価値がともすれば忘れられがちである。更に残念なことには近代化の過程で、古いものの価値を認めず、新しいものを珍重するという期間が余りにも長すぎた。明治維新による江戸時代の文化の否定、太平洋戦争の終戦によるそれまでの日本文化の否定と、歴史的文化の否定を二度にわたって行なっている。このために失われた歴史財は余りにも大きい。

これから、それぞれの地域の特性をいかしたまちづくりを行なおうとするならば、歴史的に地域に残されたものがよりどころになる。残されたものの中にたからがある。こうした歴史財を大切にして行くためには、先ず地域住民、町民、さらには広くどこから掛塚を訪れた人にもその価値が目に見えるような形にすることが必要となろう。そしてそれと同時に、このような価値を全ての人と分かち合えるような価値を伝達する仕組みが重要となる。

このことは最初に、この優れたまちなみ環境に囲まれて日常生活を営む地域の人々が価値を共有することから始まる。5-1-1.では掛塚の人々が自動車と歩行者の共存という貴重な価値観を地域のマナーとして持っていることに言及したが、同じようにこれ以外のまちなみの価値についても地域の人々の誰もが共感し、尊重するようにして行く必要がある。




地域のルールを都市計画に組み込む
まがたま小路都市景観形成地区基準、浜松市、より
まちなみの価値観をルールに

地域に共通の価値観が認識されれば、世田谷、神戸の山の手等に見るように、それをもとにまちづくりについての「掛塚方式」というものを見出すことが可能になる。自動車と歩行者の共存と同じように、取り壊される建物、空き地、駐車場、建て替え、あるいはミニ開発、といったことがらに対し、掛塚の歴史財を活用するためには何が望ましいか、が地域に共通のマナーとして受け入れられれば、これを掛塚のまちづくりのルールとすることが可能であろう。

地域の人々の同意があればこのルールをもとに地区計画を作り、それにたいして自治体が手助けすることが出来る。浜松市では千歳町でこうしたゾーン整備を行なっている。

こうしてまちづくりを進めるためにはなによりも先ず、地域に共通の価値観が認識されることが必要である。そうした場合にも地元の認識を高めるためにはさらにソフト整備が重要であろう。こうした価値観を見いだす作業は、他所から借りてきたものでは役に立たない。地元で自らやるのでなければ成果は得られない。地域に共通の価値観がマナーとして地域の人々に受け入れられ、それを元にルールが取り決められれば、独自の町づくりが出来るはずである。




歴史財マップの例
「歩いて見るシアトル中心部」 Downtown Seattle Walking Tour、シアトル市役所刊 より 簡単な町の歴史に続いて歩いて地域をまわるための地図が掲載され、それぞれの歴史的建物の説明が続いている。
5-2.平成5年度の課題
「考える会」の存続

町づくりの具体的な方策が地域の人々に広く受け入れられるためには、ハードウエアの整備にあっても、単にこれを事業として実施すればすむものではなく、地域にとって妥当なものであること、それと同時にまちづくりが「住民による、住民の為の住民のものである」と実感できるものでなくてはならない。事業の立案から実施までの全過程に、地域にすむ人々の発意が組み込まれるためには、外部ではなく、地域の中にそうした発意を取り纒め、形のあるものにして行く人の輪が必要となる。また、5-1-2.に見たようなソフト整備を地元で自ら行なう為にも広く官民の力を集めることの出きる組織が必要である。本年度の「竜洋町歴史財を生かした町づくりを考える会」に参加した各委員は、このような活動のために、来年度も「考える会」が存続することが望ましいと考えるに至った。

来年度以降の「考える会」が分担すべき町づくりのためになすべきことは、次のようなものである。

  • 掛塚の歴史財を活用するための地域に共通のマナーを取りまとめる。

    地域の人々に広く共有されるマナーを取りまとめて、地域のルールを作ることを目指す。

    • 建物を新しくしたり、変える場合、どうすれば掛塚の雰囲気を「通り」として残せるか。

    • 建物を新しくしたり、変える場合、掛塚独自の景観が損なわれないためには何に気を付けたらよいか。

    • 本町通り等、通り沿いにある駐車場は隠すことが出来ないだろうか。

    • 槙囲いも残して行きたい。

    • 空き家をどうすればよいか。

    • 快適な住居環境の為、保存すべきところ、手を入れるところは何か。


  • 地元の人が歴史財を再認識出来る歴史財マップを作る。

    地域の人々に広く共有される次のような歴史財をわかり安い形に取りまとめ、地域の人々に日常生活の背景となっている歴史財を見直してもらう。また外部の人々にも掛塚の魅力を訴える。

    • 廻船問屋と湊の歴史

    • 歴史的建物

    • 倉、大木等、掛塚のランドマーク

    • 河岸、河口、遠州灘、入江の自然の景観、野生動物、野鳥

    • 自転車で歴史財を見て回るための手引き

    • 寺、伝承芸能といった豊富に伝えられているストーリー


  • 次の事柄は公共事業として行政が分担すべきものだと考え、その実施の方策を行政と共に考えて行く。

    • 歴史財マップを各戸配付としたらどうか。まちなみヴィジョン作りの基盤が出来る。

    • 地元の人の再認識、他所から来た人にも分かるため案内板等を整備。

    • 本町通りの整備できないものだろうか。

    • 路地、奥通りなど、景観上重要な道路については、従来の手法にエポキシをつかった土の道など、生活の温かみのあるものにして行ったらどうか。

    • かってあったという池、運河のイメージをまちなみの景観に生かせないだろうか。

    • 林邸の木戸、緊急に整備の必要がある。

    • 林家、津倉家等資料館として町が取得し、中を見ることが出来るようにしたらどうか。

    • 廻船問屋の整備について、建物だけでなく、敷地、さらには敷地の外側の修景、通りの舗装に敷石などは考えられないか、林邸から津倉邸までをゾーンとして整備できないだろうか。

    • 祭りについて、祭り会館、常設展示館のようなものは考えられないか、貴船神社の仮宿、もう少しどうにかして利用出来ないか。

    • 旧掛塚港跡地に宿泊施設を作る。コンクリート造ということに限らないで。